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No.61新規分析法による含水有機物試料の3次元可視化の実現について

2025年9月10日

今回のキラリ公設試では、ナノレベルの高度計測分析機器や3D造形装置を整備し、地域の企業・大学の研究開発や生産現場の様々な技術的な課題解決を支援する「あいち産業科学技術総合センター」へ伺い、 「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」により取り組まれた、TOF-SIMS※1を用いた含水有機物試料に対する新規分析法について、研究員の内田さんにお話をお聞きしました。

  • ※1 TOF-SIMS:固体試料にイオンビーム※2を照射し、表面から放出される二次イオン※3の飛行時間を利用して質量を測定・可視化する表面分析手法(飛行時間型二次イオン質量分析法)
  • ※2 イオンビーム:電気を帯びた粒子(イオン)を、電気的に高速加速して光線状にしたもの
  • ※3 二次イオン:固体表面にイオンビームを照射した際に、試料表面から発生するイオン
  • 内田さんとTOF-SIMS

    内田さんとTOF-SIMS

  • TOF-SIMS全体像

    TOF-SIMS全体像

Q1知の拠点あいち重点研究プロジェクトについて教えてください。

高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学官の共同研究開発プロジェクトです。

2011年度以降「重点研究プロジェクトI期~Ⅲ期」を実施し、2022年度から2024年度までを「重点研究プロジェクトⅣ期」として実施してきました(Ⅳ期は16大学、7研究開発機関等、88社が参画)。

「重点研究プロジェクトⅣ期」では、大きく変わりつつある産業構造や社会構造を見据え、(1)愛知の基幹産業の高度化をめざすプロジェクトCore Industry、(2)デジタル・トランスフォーメーションの加速化をめざすプロジェクトDX、(3)脱炭素・安心安全社会等に関わる社会的課題の解決をめざすプロジェクトSDGsの3プロジェクトのもと、27件の研究テーマを実施してきました。

今回のキラリ公設試では、プロジェクトCore Industryの研究テーマである「塗膜/外用剤の次世代分子デザインに向けた3次元可視化法の確立」で取り組んできた新規分析法による含水有機物試料の3次元可視化の実現についてご紹介します。

Q2どのような課題があり取り組まれたのでしょうか?

製品開発や安全性の評価において、どのような成分が機能発現に必要なのか、有効成分がどこでどのように働くのかを理解できれば、最適な機能設計・特性制御を目指した検討が可能になります。

様々な有機・無機化合物の分布状態を評価するための手法として、従来からTOF-SIMSが用いられていますが、高真空条件及び長時間の測定を必要とするため、食品や化粧品、塗料、農薬といった水分を含む試料(含水有機物試料)を対象とした場合、水分の揮発による形状変化及び分子状態変化が起きてしまい、その内部における対象成分の立体的な分布状態を可視化することは困難でした。

また、3次元の分子の分布状態を評価するためには表面からのエッチング(表面の一部を削りとる表面加工法)を組み合わせる必要がありますが、有機物を主体とした試料ではエッチングによって有機分子が損傷を受けたり、内部がかき混ぜられたりして、正しい位置関係が評価できなくなるという問題がありました。

製品開発において目標とする性能や機能を実現するためには、分子の化学構造や存在状態といった分子性能を正しく数値化し、最適化することが不可欠です。そこで、従来にない機能や特性を備えた次世代分子デザインの実現を目指し、複雑な成分分布や経時変化を立体的に可視化できる新しい分析手法を開発しました。

Q3新規分析法について教えてください。

課題である含水有機物試料の水分の揮発を防ぐため、TOF-SIMSに凍結した試料を導入し、凍結状態を維持したまま、低損傷エッチング※4をすることで、試料中における分子の存在状態を3次元で観察することができる分析法の開発に取り組みました。

しかしながら、従来の設備では、凍結状態の試料表面を分析可能な状態のままでTOF-SIMSに導入することができないため、グローブボックスの新規開発および液体窒素を用いた試料の低温導入・分析を繰り返し、試料表面が適切に分析できる条件を検証・確立しました。

この分析方法により、水分を含む食品、生体組織、工業材料等を実際の状態を維持したまま測定することで、より正確な情報を得られるため、製品開発や安全性の評価に役立てることが期待されます。

また、本分析法で木材、ギンナン、美容等に効果のあるビタミンCを塗布した皮膚組織、コーティング剤を測定した結果、例えばエッチングを均等に行うことが困難であった多孔質材料である木材の微細な立体構造と高分子成分の分布が立体的に本来の構造が可視化でき、皮膚においては、表面に塗布された成分(ビタミンC)が、内部に浸透していく様子を立体的に可視化することができました。

TOF-SIMSは、元々は半導体やガラス関連の業界によく利用される装置ですが、依頼試験を実施している公設試は、当センターの他に東京都と群馬県と数が少なく、さらに当センターでは本分析法の開発により国内で初めて、木材、食品、コーティング剤、皮膚等の幅広い試料に対応できるCryo-GCIB-TOF-SIMS※5の依頼試験が可能となりました。新分析法の概要はこちら

Cryo-GCIB-TOF-SIMSの分析結果例
Cryo-GCIB-TOF-SIMSの分析結果例

  • ※4 低損傷エッチング:表面の一部を削りとる表面加工法で低損傷で極表面だけを穏やかに削り取る手法
  • ※5 Cryo-GCIB-TOF-SIMS:有機材料の深さ方向分析を可能にする表面分析技術GCIB(ガスクラスターイオンビーム)※6による低損傷エッチングと、TOF-SIMSによる表面の定性分析を組み合わせることで、凍結状態の試料表面から得られる情報から微量有機成分の深さ方向分布を評価します。
  • ※6 GCIB:数千個程度のアルゴンなどの原子で形成されるガスクラスターイオンビームを固体表面に衝突させ、表面を削る技術

Q4どのような分野での活用が可能でしょうか?

含水有機物試料を凍結状態でエッチング、可視化することで、時間経過による化粧品や顔料、接着剤や農薬、塗布剤などの分布状況を確認することができるため、幅広い分野での活用が考えられますので、含水有機物の浸透状況や拡散挙動を確認したいなどの希望があれば、まずはご相談ください。

<参考:本プロジェクトに参画した企業の活用事例>

日本メナード化粧品株式会社【外用剤の皮膚浸透性評価技術】
皮膚に浸透した外用剤成分(ビタミンC等)の皮膚内成分分布や分子情報のリアルな挙動解析が可能となり、製品の有効性、安全性評価への活用が見込める。
中京油脂ホールディングス株式会社【機能性コーティング】
SDGsへの取り組みとプラスチック代替のニーズから、紙基材(紙ストローなど)等、各種コーティングの需要が高くなっている。コーティングの高機能、薄膜化が進む中、本分析法により、コーティングの化学構造と発現物性を関連付けることができるようになり、次世代機能性コーティング剤の効果的な製品設計・開発が見込める。

Q5その他の取組やPRしたいことはありますか?

当センターでは、名古屋大学の青木准教授と連携して重点研究プロジェクトⅣ期 成果普及セミナー等を開催し、開発成果の普及や技術移転、成果を活用した企業の製品開発支援などを行っています。

2025年4月から当センターで本分析法を依頼試験として御利用いただいているので、関心のある方々からのご相談やお問い合わせに随時対応しています。他にも有機・無機化合物の分析に適した装置を保有していますので、お気軽に御連絡ください。

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本ページに関するお問合せ先

中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
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