2023年12月22日
経済産業省では「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定するなど、産業界におけるカーボンニュートラル(以下、CN)への対応やデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の推進を行っています。
No.46から複数回のシリーズで、中部・北陸地域の公設試が、CN・DXに関係するテーマでどのような取組を行っているかをご紹介していきます。

左から島津さん、木村さん、平出さん
あいち産業科学技術総合センター産業技術センターでは、製造業の盛んな愛知県において、機械、金属、プラスチック、木材など幅広い業界を対象として、工業技術分野の技術支援を行っています。
今回はDXをテーマに、地域企業へのIoT活用支援について、自動車・機械技術室 木村さん、島津さん、平出さんにお話を伺いました。
Q1あいち産業科学技術総合センター産業技術センターでは、企業のIoT活用支援に取り組まれているとのことですが、支援を始められた経緯を教えてください。
当センターでは、これまで総合技術支援・人材育成室において、外部講師によるIoTセミナーや技術研修等を開催しています。その一方で、センター利用者を対象としたアンケートや業界団体との意見交換において、センター職員によるIoTに関する技術相談・指導や勉強会の要望が多く挙がっていました。そこで、外部講師による一過性のものだけではなく、センター職員が継続して相談対応できるようにするため、我々自動車・機械技術室が2021年度からIoT活用支援を目的とした研究に取り組み始めました。
また、その翌年の2022年度からは(国研)産業技術総合研究所(以下、産総研)の「つながる工場テストベッド事業」(詳細はQ3参照)に参画し、現在、同所との共同研究「愛知県地域企業等へのIoT導入強化に関する研究」に取り組んでいます。
Q2具体的にIoT活用支援としてどのような取組をされているのでしょうか。
これらの研究では、産総研のIoTツール「MZプラットフォーム・スマート製造ツールキット」(以下、スマート製造ツールキット)を活用して、当センターの試験機器や装置にセンサー等を取り付けてIoT化(稼働状況等の見える化)をする取組や、スマート製造ツールキットをベースにした「IoT化支援ツール」を開発する取組を進めています。IoTに関して関心はあるものの取り組めていない企業に対して、IoT活用の例示や「安価に、手軽に、」システム構築できるツールを提供することで、IoT活用支援につなげることを目的にしています。
具体的な支援の取組みについては、研究の成果普及として、IoT化事例を紹介する「愛知県つながる工場テストベッド 公開セミナー・見学会」とIoT化支援ツールの操作方法を習得していただく「愛知県つながる工場テストベッド IoTシステム構築研修会」を2023年10月に開催するなど、企業へのIoT活用支援の取組を今年度から本格的にスタートさせたところです。
Q3産総研の「つながる工場テストベッド事業」について、その概要や特徴を教えてください。
「つながる工場テストベッド事業」は、企業のIoT活用促進とIoTに関する課題の解決を図る方法論の検討を行うプロジェクトとされています。「テストベッド」の構築を通じて、産総研が公設試の人材育成をし、構築したテストベッドを活用して、我々公設試が地域企業のIoT活用を促進することを狙うものです。
当センターでは、「テストベッド」をIoT活用の例示と意見交換をする場と考え、センターの試験機器や装置を多数IoT化することに取り組んでいます。幅広い業界である地域企業の多岐に渡るであろうIoT化ニーズに対して、企業の皆様の参考になるように複数の試験機器、装置をIoT化支援ツールによりIoT化する「愛知県つながる工場テストベッド」を構築しています。
テストベッドの公開やIoT化支援ツールの使用方法を習得していただく研修会の開催を通じて、地域企業の方に具体的な活用事例をご覧頂くことで、IoT活用の課題やニーズを抽出し、その解決に一緒に取り組むことを目指しています。
(「愛知県つながる工場テストベッド」イメージ図)
Q4「スマート製造ツールキット」や開発を進められている「IoT化支援ツール」はどんなものですか。
「スマート製造ツールキット」は、高度なスキルなしで、工場のIoT化を実現することを目的に産総研が開発したもので、IoT化のための基本的なアプリケーションソフトウェア(以下、アプリ)が用意されています。無料で利用することができ、基本的なシステムであればプログラミングも不要ですので、費用をかけずにあまり知識が無くてもある程度のIoTシステムを構築することができます。IoT未経験の企業が、IoTでどんなことができるのか体験するのに使いやすいツールだと思います。ハードウェアとしては、シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」、マイコンボード「Arduino Nano」を使用しています。ソフトウェアとしては、センサーのデータの取得や可視化をすることができる基本的なアプリが用意されています。
当センターで開発を進めている「IoT化支援ツール」は、このスマート製造ツールキットをベースにしています。IoT未経験の企業がコストや人員に限りがある中、「安価に、手軽に、」基本的なIoTシステムを構築することを支援することを目的としたものです。スマート製造ツールキットが提供する基本的なアプリと組み合わせて使用する独自のアプリとして、センサー信号から試験機器や装置の稼働状況を判別して表示する機能やカメラ映像を取得して保存する機能などを持つアプリを作成しました。また、AIを利用したアプリの作成も進めており、これらをまとめて「IoT化支援ツール」とし、その高度化に取り組んでいます。
(MZプラットフォーム・スマート製造ツールキット)
Q5「IoT化支援ツール」によるセンターの試験機器や装置のIoT化の状況はどうですか?
現在、プレス機や環境試験機など5種類の試験機器や装置の稼働状況のIoT化(見える化)に取り組んでいます。具体的には、照度センサーを装置の表示灯に設置して運転状況を判別したり、光電センサーを設置してプレス動作を検知して回数をカウントしたり、カメラの画像を遠隔地から確認したりするなどのIoT化に取り組んでいます。
また、小型のアームロボットを使って、組立・検査における画像による不良判別とそのカウントや、取得した加速度センサーデータに対する異常検知など、IoTだけでなくAIの活用を例示するシステムの構築も進めています。
(センターの装置にIoT化支援ツールを取り付け、遠隔地から装置の運転状況や稼働率などを確認している様子)
Q6事業の中で実施されたセミナーやIoTシステム構築研修会について、参加企業の反応はいかがでしたか?
テストベッド公開セミナー・見学会には、オンライン参加含めて約50名の方にご参加頂きました。現在、当センターがIoTに関する相談先として十分に認知されているとは言えない中、相談先の一つとして認識される機会となったのではないかと思います。特に、見学会ではIoT活用の実例をご覧頂くことで、IoT活用の具体的なイメージを提示することができ、質問も多数頂きました。
また、IoTシステム構築研修会には、定員を上回る参加申し込みがあり、地域の中小企業やスタートアップなど幅広い方に参加頂けました。参加者を対象にIoT化支援ツールの貸し出しを行った結果、約半数が本ツールを使用して自社での取組を検討されており、今後、これらの企業のフォローアップや第2回の開催も予定しています。
Q7IoT導入を検討されている企業に、貴センターはどのような支援をされていますか。また、IoT化支援ツールの利用方法など、センターの支援を受けるための料金や利用フローを教えてください。
IoT活用の事例紹介による情報提供とIoT化支援ツールによるIoT活用支援を実施していきます。ご相談やIoTシステム構築研修会への参加に費用はいただいていません。現在、IoT化支援ツールの使用方法を習得するには、IoTシステム構築研修会に参加していただく必要がありますが、今後、状況を見ながら個別対応も検討していきたいと思っています。IoT活用に関する課題やニーズなど、幅広くお聞かせいただければと思います。
(公開セミナー・見学会、IoTシステム構築研修会の様子)
Q8IoT活用支援等を通じて、地域企業に提供していきたい価値など、今後の展開についてお聞かせください。また、利用を考えている方へ一言お願いします。
IoTもそうですが、それ以外のAI、ロボットなど、特に地域の中小企業の皆さんにとって技術活用や応用開発(技術活用した製品等の開発)のハードルが高いと思われる分野についても支援できるようにしていきたいと考えています。我々も勉強しながらですが、地域企業のIoT活用のお手伝いができたらと思いますので、お気軽にご相談ください。
本インタビュー対応者
- 自動車・機械技術室 木村 宏樹 主任研究員
- 自動車・機械技術室 島津 達哉 主任研究員
- 自動車・機械技術室 平出 貴大 技師
お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
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