2023/7/27
経済産業省では「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定するなど、産業界におけるカーボンニュートラル(以下、CN)への対応やデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の推進を行っています。
No.46から複数回のシリーズで、中部・北陸地域の公設試が、CN・DXに関係するテーマでどのような取組を行っているかをご紹介していきます。

左から新谷さん、宮川さん、高野さん、吉田さん
石川県工業試験場は、「中小企業の試験室・実験室」を基本コンセプトに、技術相談・指導、依頼試験・分析、研究開発を強化・充実させ、既存産業の高度課と次世代産業の育成を支援しています。
今回はDXをテーマに、デジタルツインを活用した機械加工について、機械金属部 高野さん、宮川さん、新谷さん、吉田さんにお話を伺いました。
Q1石川県工業試験場では、企業のDX支援について、どのような取組をされていますか。
DXに関しては、AI・IoTや5Gに関する技術支援を新たに立ち上げるとともに、機械金属部では、CAD、CAE、3Dプリンタなどの3Dデータの効果的な活用に関する技術支援にこれまで注力してきました。
3DCADによる設計に関しては80%程度活用されてきており、中堅以上の企業にはある程度浸透しているように感じますが、シミュレーションの活用は40%程度にとどまっている現状です。その理由として、導入の敷居が高い、効果が実感できない、社内に人材が不足しているなどの声が寄せられており、石川県工業試験場では、これらの課題に対応するため、DXセンターの設立とシミュレーション技術の更なる支援に注力していく予定です。
Q2デジタルツインについて教えてください。
デジタルツインとは現実の機械システムのふるまいをサイバー空間であるコンピュータ内でシミュレーションにより再現するものです。通常のシミュレーションと異なるのは、現実とサイバー空間で情報がつながっているというところがポイントです。
Q3デジタルツイン技術をものづくり現場で活用する具体的な効果を教えてください。
デジタルツインのモノづくり現場の活用事例として、バーチャルセンサと呼ばれるものがあります。このバーチャルセンサはセンサでは計測できない位置の温度などの物理量をシミュレーションによって推定するものであり、実際にセンサがあるかのようにリアルタイムにセンサ情報が出力できます。このため、内部で実施されるシミュレーションは超高速で計算が行われます。また、通常のシミュレーションとは異なり、実機のセンサからの情報に基づいて計算が行われるため、解析精度も比較的優れております。このシミュレーションにより、センサ以外の様々な物理量(情報)を取得することができます。
Q4デジタルツインを活用して、石川県工業試験場ではどのような技術支援をされていますか。
石川県工業試験場では、切削加工において重要な工具の刃先温度をバーチャルセンサによって推定する研究を行いました。結果として、これまで測定が困難であった刃先温度を十分な精度でリアルタイムに推定することができました。また、学会などで講演したところ、受賞を受けるなど、好評をいただいております。
Q5技術支援を受ける際の利用料金や相談フローを教えてください。
相談はメールや電話等でいつでも対応しております。特に料金もかかりません。具体的な作業が必要な場合は、受託研究などに発展することもあります。
Q6様々な業種からの相談が予想されますが、今までにどんな相談を受けましたか。また、デジタルツインによる実測を行った際の企業の反応はどんな様子でしたか。
刃先温度推定のイメージが強いので、機械加工関連からの相談が多いでが、この技術は様々な分野への応用が可能であるため、今後は適用事例を増やしていきたいと考えています。
相談企業からは好評をいただいております。ただ、実用化という点ではいくつかの課題もございますので、今後は企業と共同研究などを行いながら、実用化を目指して取組を進める予定であり、今年度は3社と共同研究を研究を行う予定です。
Q7デジタルツインを使うために、どのような設備を導入されていますか。
ソフトとしては、構造解析や伝熱解析などのシミュレーションソフト(ANSYS)と機械システムからのセンサ情報を信号処理するソフト(LabVIEW)を、ハードとしては、機械システムの情報を取得するセンサや組み込みコントローラのようなものを、それぞれ導入しています。
装置のデジタルツイン センサで実測できない現象を見える化
石川県工業試験場では、「デジタルものづくり」の普及と実践人材の育成やデジタルツールの活用促進のため、デジタルものづくり推進のための拠点「石川ものづくりDX推進センター」の整備を来年度に予定しています。本件について、DXセンターの舟田部長にお話を伺いました。
Q8デジタルものづくり推進のための拠点整備が予定されていますが、この拠点では具体的にどんな支援が受けられますか。
デジタルツインも含めたシミュレーション全般に関して、支援をしていく予定です。様々なシミュレーションを導入し、県内企業の技術者にご利用いただく場を設けていきます。また、シミュレーションを効果的に活用して頂くために、人材教育などにも力を入れていく予定です。さらに技術導入後も企業に出向き、効果的に活用できるまでの伴走支援を行っていく予定です。
支援のための拠点整備
石川ものづくりDX推進センター
Q9拠点整備によって、地域企業へ提供していきたい価値など、今後の展開についてお聞かせください。
整備する拠点が、地域企業のデジタル化や競争力強化に貢献できるように取り組みを進めていきたいと考えております。デジタルツインやシミュレーションにご関心ございましたら、お気軽にご相談ください。
本インタビュー対応者
- 機械金属部 舟田 義則 部長
- 機械金属部 高野 昌宏 主任研究員
- 機械金属部 吉田 勇太 専門研究員
- 機械金属部 宮川 広康 主任技師
- 機械金属部 新谷 正義 技師
お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
※「スパムメール対策のため、@を■に変えてあります。メールを送信するときは、■を@に戻してから送信してください。