2021年2月12日
今回のキラリ公設試(No.38~No.42)では、経済産業省の平成30年度補正予算「地域新成長産業創出促進事業(地域未来オープンイノベーション・プラットフォーム構築事業)」を活用して、 地域の公設試験研究機関・大学に導入された「試験研究・検査設備」の特徴と地域の企業に対する利活用の期待についてご紹介いたします。 実際の利用事例から、『これは自社で活用できるかも!』といった、企業の方々の利活用のヒントへとつなげていければと考えております。導入された設備は県内外に関わらず利用可能となっていますので、是非ともご活用ください。

山下さん、西海さん
石川県工業試験場は「中小企業の試験室・実験室」を基本コンセプトに、技術相談・指導、依頼試験・分析、研究開発を強化・充実させ、既存産業の高度化と次世代型産業の育成を支援しています。
今回は、経済産業省の平成30年度補正予算で導入した「ブルーレーザ肉盛積層装置」と「マイクロ三次元スキャナ」について、山下さん、西海さんにお話を伺いました。
Q1ブルーレーザ肉盛積層装置とマイクロ三次元スキャナの概要を教えてください。
結露サイクル試験機
ブルーレーザ肉盛積層装置は、金属粉末を噴射しながら3本のブルーレーザ光(波長445nm)を照射して(右図マルチビーム方式参照)、 基材の表面に溶融・凝固させて金属の層を形成する装置です。層を積み重ねれば立体的な造形もできますし、損傷した部品の補修や既存製品への形状追加、 製品の表面のコーティングなどにも利用できます。また、粉末を噴射せずにレーザ光のみを照射すれば、溶接機として使用することも可能です。
ブルーレーザ肉盛積層装置
マイクロ三次元スキャナは、光切断法を用いて、非接触で対象物の三次元形状を測定し、その結果から三次元 CAD データを作成する装置です。 また、測定結果から形状や寸法を評価することもできます。
マイクロ三次元スキャナで補修部の形状を取得し、その形状データを基にブルーレーザ肉盛積層装置で補修を行うことが出来ますので、 これまでの手作業による補修をデジタル化することで形状測定から補修加工まで自動化することが可能になります。
マイクロ三次元スキャナ
Q2マイクロ三次元スキャナで測定した試料をブルーレーザ肉盛積層装置で積層造形するなど装置間の連携が期待できますね。これらの装置は、どのようなものを肉盛したり測定したりすることが出来ますか。
鉄鋼材料、ニッケル合金、コバルト合金やチタン合金などの粉末材料に加え、従来のレーザでは加工困難な純銅や銅合金の粉末材料も使用可能です。 肉盛ビードは、幅0.3mm、厚さ0.1mm程度の大きさですので、微細な箇所へ微小量の肉盛をすることができます。 また、ビードを重ねて層を形成することにより、長尺のものであれば200mm程度の長さ、球面上であればφ100mm程度のワークにコーティングや形状追加ができます。 曲面にレーザ加工を行っている様子を動画にて紹介いたします。 マイクロスキャナでは、測定結果をつなぎ合わせることによって200mm×100mm×高さ50mmの測定範囲において三次元形状を測定できます。
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レーザ加工の様子
Q3動画のように曲面にも積層造形できるのは魅力的ですね。まだまだ魅力があると思うのですが装置のアピールポイントを教えてください。
ブルーレーザ肉盛積層装置は、レーザ光にブルーレーザ(波長445nm)を用いているため、現在主流である近赤外レーザ光(波長約1000nm)では肉盛が困難な純銅の層形成が可能です。 また、マイクロ三次元スキャナでは、既存の三次元デジタイザに比べ点密度が高く、補修を行う際に必要な肉盛箇所の形状データをより細かくより高精度に取得できることが特徴です。さらに写真のようなボタンサイズであればわずか1秒で測定できるのも自慢です。
Q4利用料金を教えてください。
今回の装置は、企業の皆様がご自身で操作して頂く「開放試験」機器になります。ブルーレーザ肉盛積層装置は、5,210円/時間でご利用頂けます。 金属粉末は、お持ち込み頂いても良いですが、試験場が保有する粉末をご利用頂く場合は、別途材料費として200円/cm³が必要です。
マイクロ三次元スキャナは、700円/時間でご利用頂けます。
Q5誰でも装置を利用することは出来ますか。
はい。県内のみならず、県外企業の利用も可能です。機器の利用には、初回だけ機器操作研修を受けて頂きます。 装置の取り扱いになれていない人でもこの研修を受けて頂ければ装置を使うことが出来るようになります。この研修には、4,000円/人が必要です。
現在は主に県内企業のご利用がほとんどですが、県外の方にもご利用いただけます。特に、ブルーレーザ光を用いた積層装置は、現在のところ公設試では石川県のみ保有しているため、他県からのご利用をお待ちしています。
Q6初心者でも研修を受ければ使えるようになるというのは嬉しいですね。それでは利用までの流れを教えてください。
まずはお電話やメールでご連絡ください。ブルーレーザ肉盛積層装置をご利用の場合は、使用する基材や金属粉末の材種、肉盛箇所や肉盛形状などを伺い、 肉盛条件の提案や必要に応じて条件出しのための基礎実験方法についてご説明します。
マイクロ三次元スキャナは、機器の操作が自動化されている部分が多く簡単な操作で測定できるため、半日で機器操作を習得し、ご利用いただけると思います。
装置の見学や相談は無料で随時受け付けていますので、ご興味がある方はご連絡していただきご来場下さい。
Q7今までにどんな相談を受けましたか。
肉盛の相談では、
- ■銅と鉄を溶接できないか
- ■ステンレスやアルミに銅をコーティングできないか
- ■銅コーティングにより抗菌・抗ウイルス製品を製造できないか
- ■自社製の銅粉末を積層造形用に使用できないか
との相談がありました。
測定の相談では、
- ■金型の原型を三次元データ化したい
- ■鍛造品と切削加工品の形状比較をしたい
- ■造形品の三次元CADデータとの形状評価をしたい
という相談を受けました。
Q8実際に依頼試験で本装置を利用した企業の皆様の声を聞かせていただけますか。
はい、機器を利用した企業の方にご意見を頂いたので紹介します。
1.設備・機器製造業(中小企業)
【相談内容】
鋼材に銅材を接合したいが、一般的にレーザ加工機で使用されている近赤外レーザ光では銅が溶けず接合が難しい。ブルーレーザが銅の加工に優位だとよく聞くが、それを検証できるところを探している。
【ブルーレーザ肉盛積層装置を開放試験利用した感想】
ブルーレーザを用いて鋼材に銅を溶接する実験を行ったところ、銅材が溶融し鋼材にしっかり溶け込んでいた。
実際の実験で銅に対するブルーレーザの効果を確認できたので、今後はブルーレーザを活用した設備開発を行っていきたい。
2.半導体製品製造業(中小企業)
【相談内容】
製造に用いている金型が破損した場合、外注でレーザ補修を行っている。
手作業なため肉盛箇所の形状が微細で複雑な場合、肉盛の形状精度などの品質にバラツキがある時や、補修できない時がある。
【マイクロ三次元スキャナを開放試験利用した感想】
微細な補修箇所の形状を高精度に測定し、忠実に3D-CADデータ化することで、レーザ肉盛装置による正確な補修ができるようになった。
また、自動で補修できるため納期短縮効果や品質安定化効果も確認できた。将来的な技術導入を見据えながら、今後も装置を活用したい。
Q9この装置を今後どのように利用していきたいですか。
まずは、どのような装置で何ができるのかを知ってもらうために、セミナーなどを通じて広報していきたいです。ブルーレーザ肉盛積層装置は、マイクロ三次元スキャナと組み合わせて使うことで、補修を自動化できるため、熟練工不足が危惧される今後の製造現場においては、 益々重要性が高まると予想されています。その為、今後もデジタル補修技術を推進していこうと考えています。また、何よりブルーレーザ光が特徴であるので、純銅を活用した用途開発を行っていきたいです。
本インタビュー対応者
- 石川県工業試験場 機械金属部 山下 順広 専門研究員
- 石川県工業試験場 機械金属部 西海 綾人 技師
石川県工業試験場にブルーレーザ肉盛積層装置及びマイクロ三次元スキャナが導入されたと同時に、金沢大学においても同じく平成30年度地域新成長産業創出促進事業を活用して、「金属積層造形可視化装置」と「変形・ひずみ計測システム」を導入しました。 金沢大学では、これらの機器を用いて、ブルーレーザ肉盛積層装置における金属粉末の溶融スピード、溶融温度やレーザの当て方などを評価・分析することで、最適な積層造形条件を導き出す研究等を進めております。 「金属積層造形可視化装置」は古本教授、「変形・ひずみ計測システム」は國峯助教にそれぞれ話を伺いました。
古本教授
金属積層造形可視化装置は、高速度カメラを用いてレーザ照射で生じる粉末挙動の変化を詳細に観察することができます。積層造形の課題を原因療法的に調べ、スパッタ・ヒュームの発生を抑制し、造形物の機械的特性の改善に向けた条件設定指針を構築することが可能になります。 現在は、造形物の品質保証に向けた条件設定手法の確立や、新たな造形用材料の開発に向けて可視化装置を利用しています。
また、金沢大学では2019年に設計製造技術研究所を設立し、積層造形装置、周辺機器や材料など分野を横断した共同研究体を構築すべく取り組みを強化していますので、お気軽にお声がけください。
金属積層造形可視化装置

- 金沢大学 設計製造技術研究所
教授 古本達明 - E-mail:furumoto@se.kanazawa-u.ac.jp
- TEL:076-264-6457(設計製造技術研究所・代表)
國峯助教
デジタル画像相関法による変形・ひずみ計測システムを用いれば、材料試験で従来のひずみゲージ等を使用した方法では評価が難しい微小な領域のひずみの変化を詳細に可視化できます。 また、積層造形材や接合材の変形過程におけるひずみ分布を詳細に調べることで、それらの部材が信頼できる十分な機械的性質を有する最適な条件で金属積層造形や接合が実現できているかを評価することもできます。
金属積層造形材の微細組織制御による材料特性の向上に関する研究なども実施していますので、材料開発で何かお役に立てれば幸いに存じます。

- 金沢大学 理工研究域 機械工学系
助教 國峯崇裕 - E-mail:kunimine@se.kanazawa-u.ac.jp
- TEL:076-234-4680
機器紹介1 ブルーレーザ肉盛積層装置
- メーカー名
- 株式会社村谷機械製作所
- 型式
- ALPION Type Blue
- 主な仕様
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レーザ光出力: 100W×3 ビーム レーザ光波長: 445nm(青色可視光線) 自動ステージ: X 軸(250mm)、Y 軸(250mm)、
Z 軸(140mm)、A 軸(±90deg)、C 軸(無限)粉末材料: 純銅、銅合金、鉄鋼材料、ニッケル合金、
コバルト合金、チタン合金 など

機器紹介2 マイクロ三次元スキャナ
- メーカー名
- 株式会社キーエンス
- 型式
- VR-5200
- 主な仕様
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測定視野: 1.9×1.4mm~24×18mm 撮影素子: 400万画素 測定精度: ±2.5μm(高さ方向)、±2μm(幅方向) ステージ: 184×88mm(XY ストローク)、
73mm(Z ストローク)、4.5kg(耐荷重)

お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
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