2020年3月30日
今回のキラリ公設試(No.34~No.37)では、経済産業省の平成29年度補正予算「地域新成長産業創出促進事業(地域における中小企業の生産性向上のための共同基盤事業)」を活用して、地域の公設試験研究機関に導入された「試験研究・検査設備」の特徴と地域の企業に対する利活用の期待についてご紹介いたします。
実際の利用事例から、『これは自社で活用できるかも!』といった、企業の方々の利活用のヒントへとつなげていければと考えております。導入された設備は県内外に関わらず利用可能となっていますので、是非ともご活用ください。

左から 水谷さん、小寺さん
岐阜県産業技術総合センターは、工業技術研究所、産業技術センター、情報技術研究所の機能を集約した岐阜県の新たなモノづくり拠点として2019年6月に開所し、機械・金属・化学をはじめとする各地域産業から航空機などの成長産業に至る幅広い支援を行っています。
今回は、経済産業省の平成29年度補正予算「地域における中小企業の生産性向上のための共同基盤事業」で導入された「微小部測定システム・大型構造物測定用応力ヘッド(残留応力測定システム)」について、金属部の水谷さんと小寺さんにお話を伺いました。
Q1微小部測定システム及び大型構造物測定用応力ヘッド(残留応力測定システム)とは、どういった装置ですか?
金属製品に外力を加えると、それに反発する内力が発生しますが、外力を除去した後にも内力が残ることがあります。これを残留応力と呼びます。今回導入した機器はこの残留応力を測定するためのものです。
残留応力は、プレスや鍛造などの外力により変形させる加工ではもちろん、高周波焼入れや窒化処理などの熱処理、鋳造・ダイカストによっても発生し、その後の製品の変形・破損が起きる原因の一つです。また、砂粒のように小さな無数の鉄球を金属表面に衝突させる“ショットピーニング”と呼ばれる方法により、意図的に圧縮の残留応力を付与させる技術もあります。本装置は、これらの処理をした製品の残留応力を評価するのに役に立つものです。
残留応力の測定結果
Q2この装置ならではの特徴はありますか?
微小部X線応力測定システムは、X線の照射径を0.15mmまで絞ることができ、微小部の測定が可能です。残留応力の測定は汎用のX線回折装置でも可能ですが、本装置ではより高精度な測定ができます。また、X線管球を4種類(Cr, Cu, Co, Fe)揃えておりますので、様々な材種の残留応力測定に対応できます。
微小部X線応力測定システム
大型構造物測定用応力ヘッドは、装置に入れられない重量物や、橋脚などの持運びが困難な製品に対して現場での測定が可能です。こちらの装置での対応材種は鉄鋼材料とアルミニウム合金の2種類のみです。
また、いずれの装置も、試料の前処理が一切不要な非破壊試験となっており、そのまま手軽に測定することができます。試料の大きさ・重さにより使い分けており、基本的には微小部X線応力測定システムで対応しますが、装置に入らない大きさであれば大型構造物測定用応力ヘッドで測定することになります。
大型構造物測定用応力ヘッド(外枠は取り外し可能)
Q3幅広い種類の製品に対応できるのですね。今までにどのような相談・依頼がありましたか?
企業の方の主な利用用途は、鉄系やステンレス系材料の残留応力評価です。加工条件や熱処理条件による残留応力の変化を知りたいといった利用依頼が多く、曲面部やねじ部の測定の相談にも対応しています。 さらに、本装置の拡張機能として、熱処理における残留オーステナイト(焼入れ後、常温まで冷やした鋼中に残る未変態のオーステナイト※)も測定することができます。最近では、この残留オーステナイトの測定をしたいといった相談もありました。 依頼者の内訳は自動車部品メーカーや岐阜県の地場産業である刃物メーカーなど様々です。 ※オーステナイト…鋼を高温に加熱した時に得られる組織。
Q4実際に機器を利用したいときはどうすれば良いですか?
本装置は開放機器としてご利用いただけます。ご利用される前に、材質、形状、測定箇所などの打合せを行います。実際の測定は利用者様ご自身で行っていただきますが、初めての方には測定方法を丁寧にお教えしています。
測定の様子
まだ導入して1年程度であるため、ほとんど初めて装置を利用される方ばかりですが、すぐに使いこなすことができており、何度も使いに来られている方もいます。利用を考えられている方は是非お気軽にご相談ください。 開放機器利用の1時間あたりの利用料は、微小部測定システムは2270円、大型構造物測定用応力ヘッドは1680円となっています。
機器の設定は職員がサポート
Q5岐阜県産業技術総合センターにある他の機器と組み合わせた利用例はありますか?
鉄鋼材料中の残留オーステナイトは不安定な組織であるため、長時間をかけて他の組織に変化することから、寸法変化(体積膨張)や、それに付随する割れなどの問題が生じます。 そこで、熱処理後の残留オーステナイトを既存設備の走査型電子顕微鏡に付属する電子線後方散乱回折法(EBSD)と比較検討したことがあります。 この結果、残留オーステナイトの量に差が見られました。EBSDの測定は、試料断面において内部の数百μmの範囲を観察したのに対し、微小部測定システムは試料表面から深さ数μm程度をΦ1mmの範囲で測定したことから、異なる結果になったと考えられます。 今後、微小部測定システムで用いるX線の焦点を絞り、EBSDで測定した断面の応力分布を調べて比較したいと考えています。EBSDによる測定は試料作りが非常に難しく、利用料金も高価な部類に入ります。 これに対し、X線を用いた微小部測定システムは、試料調整が一切いらず、そのまま簡単に測定することができます。利用料金も安価で手軽に利用できますので、この用途でも是非ご利用下さい。
Q6今後は本装置を活用してどのような取り組みをしたいと考えていますか?
残留応力の深さ方向の分布を調べてみたいと思います。ショットピーニングでは、表面から内部に向かっての圧縮応力の分布が重要となります。これを把握するために、電解研磨で金属表面を少し溶かして残留応力を測定する、ということを繰り返して内部の応力分布を測定します。 金型等の表面処理として利用される窒化やショットピーニングの効果が、使用によりどのように低下していくのか、といった耐久性についても処理層の残留応力を測ることによって評価できるのではと考えており、このような研究等に活用できたらと思っております。
機器紹介
- メーカー名
- 株式会社リガク
- 型式
-
左(微小部測定システム):AutoMATE II
右(大物構造物測定用応力ヘッド):SmartSite RS - 主な仕様
-
AutoMATE II
最大定格出力: 2.0kW 応力測定方法: 並傾法、側傾法 応力解析方法: sin2ψ法 2θ測定角度範囲: 2θ=98~168° 最大試料重量: 30kg テーブル面: Φ150mm(精密ラボジャッキ使用時) 最大定格出力: 50W コリメータ: Φ1mm 入射角(ψ0): 35deg. 2θ測角範囲: 145~165deg.

本インタビュー対応者
- 金属部 水谷 予志生 専門研究員
- 金属部 小寺 将也 研究員
お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
※「スパムメール対策のため、@を■に変えてあります。メールを送信するときは、■を@に戻してから送信してください。