No.28 減圧恒温恒湿槽

平成26年度地域オープンイノベーション促進事業導入機器編

2018年2月13日

今回のキラリ公設試では、「平成26年度地域オープンイノベーション促進事業(戦略分野オープンイノベーション環境整備事業)」を活用して、 地域の公設試験研究機関に導入された地域の重点分野に関する取組を支援する「試験研究・検査設備」の特徴、使用状況、今後の見通し等をご紹介いたします。 実際の使用事例、取組から、「これは自社にも使えるかも」というように企業の方々の利活用の促進につなげていただきたいと考えております。 (県外の企業の皆様も是非ご利用下さい。)

左から 酒井さん、河瀬さん、中田さん

左から 酒井さん、河瀬さん、中田さん

あいち産業科学技術総合センター産業技術センターは、製造業の盛んな愛知県において、機械、金属、プラスチック、木材など幅広い業界を対象として、工業技術分野の技術支援を行っています。

今回は、産業技術センターの自動車・機械技術室の酒井さん、河瀬さん、中田さんに平成26年度補正予算オープンイノベーション促進事業で導入された「減圧恒温恒湿槽」を用いた取組のお話を伺いました。

Q1減圧恒温恒湿槽はどういった装置になりますか?

減圧恒温恒湿槽は、航空機内など気圧の低い環境で動作する製品の性能を評価するための装置です。 装置内を高度150,000フィート(約45km)に相当する気圧まで再現することができるので、 例えば旅客機が上空を運航する環境である地上の1/4程度の気圧まで減圧させ、依頼者が持ち込む製品が装置内でどのように動作するかの観察に使用します。 他にも、温度と湿度も制御することが可能で、上空を飛行する際の低温環境や低温時に高湿環境になった際の結露の影響なども考慮した試験ができることが特徴です。

  • 減圧恒温恒湿槽(ドア部)

    減圧恒温恒湿槽(ドア部)

現在、本装置を導入し、依頼試験を受け付けている公設試は東京(東京都立産業技術研究センター)、千葉(東葛テクノプラザ)、長野(南信州・飯田産業センター)、 当センターの4箇所のみで、全国的にも導入が少ない装置になります。

150,000フィートの減圧環境は、大気圧の負荷を大きく受けるため、装置自体を非常に頑丈なつくりにする必要があります。 実際に、当センターに導入されている減圧槽は強度を確保するために、壁面はステンレス製で肉厚は15cm程度となっています。 そのため装置そのものの重量も大きくなり、その重量に耐えうる構造の建屋が必要になるなど、使用環境を整えるハードルが高いことから、導入機関が少ない装置となっています。

Q2全国的に見ても導入機関は少ないのですね。航空機に搭載される製品の試験を想定しているとのことですが、例えばどのような試験をイメージすればよろしいでしょうか。

本装置の利用方法のうち一番イメージしやすい製品としてリチウム電池が挙げられます。 以前、ある航空機でリチウムイオン電池が発火し、原因究明のためしばらく飛行ができないといったトラブルが生じました。 通常、地上でリチウムイオン電池を利用する際には想定されない事態が、飛行中に生じないためにも、事前に運航環境を想定した試験が必要になります。

その他に減圧環境で生じるトラブルとしては、

  • (1)電子部品や油圧駆動装置の液漏れ、ガス漏れ
  • (2)減圧下でのスパーク(アーク放電を生じやすくなるために電子機器の破損や発火に繋がるケースがある。)
  • (3)空冷能力の低下(空気が薄くなるため、冷却ファンの効率がおちて装置が過熱状態になる。)

等が挙げられ、いずれも地上では想定しにくいトラブルですが、減圧環境では生じやすくなります。

また、上空では一般的に気温が低いため結露が起こり、その結露で生じた水滴が冷やされ氷になった際に、装置に悪影響を及ぼすこともあります。 このように航空機は圧力、温度、湿度を始めとして取り巻く環境が地上とは大きく異なるためそれら全ての要因が複雑に絡み合うことで予期せぬトラブルにつながります。

従来のJIS規格では、「減圧×温度変化×湿度変化」など複合的な試験は要求されていませんでしたが、今後そのような規格が導入される可能性が想定されるとともに、 川下企業からのニーズも高まることが考えられます。本装置はそのような試験に対応できる仕様になっています。

  • 試験槽内の電子機器

    試験槽内の電子機器

また、外部の電源からコードを装置内に取り込める設計にもなっているため、電池が入った電子機器やセンサーなど実際に動作をさせながらの試験が可能で、 その試験中の様子を扉に取り付けられている窓から観察することで、トラブルが生じる際の過程を確かめることもできます。

Q3結露については、特に航空機ならではのトラブルですね。圧力、温度、湿度等多くのパラメータを制御できるとのことですが、依頼試験はどのように実施していくのでしょうか。

本装置は、事前に試験条件をプログラムすることで圧力、温度、湿度の調整が可能です。 依頼者のご要望にあわせて、これらのパラメータを変化させる速さも調節出来ますので、事前にどのような条件で実験を行いたいかご相談いただければ、個別に対応させていただきます。 その際希望される条件が本装置にとって厳しいものであれば、装置の空き時間を利用して事前に試験の可否の確認も可能です。 また、作成した試験条件のプログラムを使用して繰り返しサイクルの試験を行うことも可能です。さらに、この試験中の気圧・温度・湿度の運転データを記録し、 試験中に対象物に変化が生じた際には当該データを原因究明の一つのツールとして使用することが可能です。

  • データの記録装置

    データの記録装置

Q4装置の利用について県外からの利用も多いのでしょうか。

全国で依頼試験を一般に実施しているのが4機関のみであるため、県外を含めて遠方からの利用も多いです。 また、他機関の減圧恒温恒湿槽と比べて、湿度の制御ができることと試験槽の容量が大きいという二つの特徴から、他の機関では対応できなかった案件を当センターの装置で解決するといったケースもあります。 そして、当センターよりも他の機関が有する減圧高温高湿槽の方が対処に適していると判断した案件については、当該機器を有する機関を紹介する等、県外機関と連携し企業に適切な依頼試験を実施しています。 なお、愛知県以西にはそもそもこのレベルの依頼試験に用いることができる減圧槽を導入している公設試が存在しないため、関西方面の企業からの相談も多いです。

一方で、近隣の岐阜県では各務原市、三重県では松阪市等航空機関連産業に力を入れている地域も近年増えてきており、利活用ニーズが高まってくる装置であると期待しています。

Q5今後は、どのような取組を考えていますか?

さらに多くの企業に利用していただくために、セミナー等で当センターにお越しいただいた方々に、設備見学会の開催をはじめ、積極的に装置の利活用の促進に努めています。 また、航空機業界に対しては、愛知県の産業振興課次世代産業室の協力によりJA2016(東京航空宇宙展)でのPRも行いました。

今後ボーイングの新型機開発案件が進む中で、アセンブリを始めとした大型のユニット製品が増えていくことが想定されます。 その際にスムーズに対応できるように今からこのような大型対象物の試験を積み重ねてノウハウを蓄積することが重要と考えております。

  • セミナーの様子

    セミナーの様子

機器紹介

メーカー名
エスペック株式会社
型式
PHI 5000 VersaProbe II
主な仕様
減圧恒温恒湿槽(MZH-32H-HS)      
気圧範囲: 101.3kPa ~ 0.1kPa
温度範囲: -70℃~180℃
湿度範囲: 20%RH~95%RH
試験槽内: W1500×H1500×D1500 mm
エスペック株式会社 PHI 5000 VersaProbe II

エスペック株式会社
PHI 5000 VersaProbe II

本インタビュー対応者

  • 自動車・機械技術室 酒井 昌夫 主任研究員
  • 自動車・機械技術室 河瀬 賢一郎 主任研究員
  • 自動車・機械技術室 中田 由美子 技術補佐員

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お問合せ先

中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
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