No.25 ハイブリッド成形機

平成26年度地域オープンイノベーション促進事業導入機器編

2017年8月23日

今回のキラリ公設試では、「平成26年度地域オープンイノベーション促進事業(戦略分野オープンイノベーション環境整備事業)」を活用して、 地域の公設試験研究機関に導入された地域の重点分野(※)に関する取組を支援する「試験研究・検査設備」の特徴、使用状況、今後の見通し等をご紹介いたします。 実際の使用事例、取組から、「これは自社にも使えるかも」というように企業の方々の利活用の促進につなげていただきたいと考えております。 (県外の企業の皆様も是非ご利用下さい。)

<<次世代自動車分野>>

東海・北陸・中国地域の公設試験研究機関が、炭素繊維強化複合材料(CFRP)の次世代自動車分野への応用に向けて、地域ブロック間の広域連携により、 素材研究から加工、品質確認までの一貫した企業支援を行う。

<<航空機産業分野>>

関東・東海地域の公設試験研究機関が航空機分野(特に装備品・部品)を対象として、 部品評価、製品評価におけるそれぞれの評価技術を活用しながら地域企業のニーズに合致した研究開発支援を行う。

左から 森澤さん、赤田さん、藪谷さん

 

左から 森澤さん、赤田さん、藪谷さん

 

三重県工業研究所は、本所(津市)、金属研究室(桑名市)、窯業研究室(四日市市)及び窯業研究室伊賀分室(伊賀市)をそれぞれ設置し、三重県の企業による技術開発や新製品開発等を支援する業務を行っています。

今回は、本所にあるものづくり研究課の森澤さん、赤田さん、藪谷さんに平成26年度補正予算オープンイノベーション促進事業で導入された「ハイブリッド成形機」を用いた取組のお話を伺いました。

Q1ハイブリッド成形機はどういった機器になりますか?

ハイブリッド成形機は、加熱した繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics))シートを金型内で賦形し、 そこに繊維含有の樹脂の射出成形を行う成形機です。高強度な成形品をつくることができるFRTPシートと、複雑形状の成形を可能にする射出成形を組み合わせることにより、 短時間でこれまでは難しいとされていた形状の成形を可能にすることが特徴です。

このような特徴を活かし、当研究所では炭素繊維複合材の低コストかつ高サイクルな成形について研究しています。

炭素繊維複合材の代表的な成形方法は、熱硬化性樹脂を用いたオートクレーブ成形が挙げられます。オートクレーブ成形は、現在最も要求レベルが高いと言われている、 航空・宇宙産業の要求値を満たす、大変優れた成形品を得ることができます。

  • 維強化熱可塑性樹脂(FRTP)シート

    維強化熱可塑性樹脂(FRTP)シート

  • 名古屋市工業研究所

    左:射出成形樹脂ペレット(炭素繊維含有無し)
    中:炭素繊維(チョップドファイバー)
    右:射出成形樹脂ペレット(炭素繊維20%含有)

反面、デメリットとして設備が高額であり、成形時間も長いという点が挙げられます。炭素繊維複合材は「軽く、比強度が高い」という利点があり、 自動車産業への適用が期待されていますが、そのためには低コスト化や成形時間の高サイクル化等の課題を解決しなければなりません。

そこで、炭素繊維複合材の成形方法として注目されているのがCFRTPを用いた成形です。 熱硬化性樹脂を用いる際には、炭素繊維複合材の硬化過程に成形時間が依存しましたが、CFRTPを使用すれば、その制限を受けることがないため、高サイクルの成形が期待できます。

その上、本機器においてハイブリッド成形としてCFRTPシートを用いて強度を高めることで、「短時間」で「高強度」な炭素繊維複合材の成形を可能にします。

Q2ハイブリッド成形には多くのメリットがありますね。

成形時間が短縮されることも大きなメリットですが、その他にも様々なメリットがあります。 例えば、プレス成形は端の部分の成形精度に制限があり、後工程(トリミング等)が必要になる場合があります。一方で、射出成形を組み合わせ、FRTPシートの端の部分を樹脂で覆うことで後工程が不要になることも利点です。 その他にもリブやボスの成形も可能であり、利用方法次第では工数の削減につながります。

また、全面をCFRTPシートのみでプレス成形をする際には一般的に非常に高価になりますが、ハイブリッド成形により、強度を求められる箇所のみをCFRTPシートで成形し、 その他を比較的安価な射出成形にすることでCFRTPシートのみを用いたプレス成形と比較して安価な成形品をつくることができます。

Q3現在はどのような成形品をつくっていますか?

多目的試験片(ダンベル型形状)の成形品と製品模擬形状の成形品をつくっており、これらの試験片は1分程度で成形できます。 また、引張り強度や曲げ強度をはじめとした物性の評価も行っており、例えば厚さ1mmのCFRTPシートを用いた成形品は、CFRTP射出成形品と強度を比較すると、 引っ張りで約5割増、曲げで約3割増の強化になることが確認できました。現在、当研究所には2種の金型を保有していますが、金型を用意いただければ、 これら2種以外の形状の成形も可能です。その際には、シートの条件出し(CFRTPシートの加熱や、ロボットによる搬送方法等)、 射出成形の条件出し(加熱温度、時間、圧力、炭素繊維含有量等)を個別に検討する必要があるので、そのような課題については共同研究として取り組めればと思っています。

  • 上:多目的試験片 下:製品模擬形状の成形品

    上:多目的試験片 下:製品模擬形状の成形品

Q4機器に関するお問い合わせはいかがですか?

年間を通して、自動車関係の企業及び自動車業界への参入を見据えた企業を中心にコンスタントにお問い合わせいただいています。 炭素繊維複合材が水素自動車「MIRAI」のバッテリーアンダーカバーに採用されたこともあり、ここ数年で企業のCFRTPに関する見方が変わったようにも思います。 数年前までは企業におけるCFRTPに関する見方は「未来の技術」だったのに対して、現在は「到来する技術」になっています。 結果として、「自社では今までCFRTPには取り組んでこなかったけれども、新たに取り組みたい。」というようなお問い合わせに繋がっていると思います。 しかし、このように関心が高まる一方で、中小企業の方々が気軽に使える成形機器が多くないというのも現状です。 こうした背景から、県内外問わず当研究所に利用の相談が多いと考えております。

  • 成形品(製品模擬形状)の利用イメージ

    成形品(製品模擬形状)の利用イメージ

Q5今後はこの機器を用いてどのような取組を考えていますか?

企業がより利用しやすい機器にするために、引き続き成形品の物性評価を進めていきます。 現在は岐阜県のXPS(複合材料表面分析装置)を用いて表面の化学結合状態を測定する等、先進的な評価機器を有する他県の公設試との連携をすることで、物性データの収集を行っています。

また、本機器について、機器見学会等を通じて県内外にPRを進めることで、利用企業の裾野を広げることも重要と考えています。 今年度の6月26日には「みえ産学官技術連携研究会」のキックオフイベントを行いましたが、当研究所としても県内外の大学や高等専門学校とも連携して、 分野横断的な基盤技術力の向上や、地域中核企業の育成を見据えた産学官プロジェクトの創出にも取り組んでいます。

本研究会の中にはCFRTP関係の検討会もあり、8月30日には第一回検討会の開催を予定しています。 そのような場を通じて多くの企業からニーズを募り、当機器を利用した研究開発に繋げたいと考えています。 CFRTPを利用した研究開発に関心がある企業におかれましては是非ご出席いただければと思います。

  • 左から 森澤さん、赤田さん、藪谷さん

    左から 森澤さん、赤田さん、藪谷さん

機器紹介

メーカー名
東芝機械株式会社
主な仕様
射出成形装置(EC100SX II-2A)  
横型締め、横射出  
射出質量(PS): 94g
最大射出圧: 980kN
シート加熱部  
加熱シートサイズ: 20cm×20cm 程度
熱源: 近赤外線ヒーター
シート搬送装置  
多関節ロボットアーム(加熱シートの型内への搬送)  
東芝機械株式会社 射出成形装置(EC100SX II-2A)

東芝機械株式会社
射出成形装置(EC100SX II-2A)

本インタビュー対応者

  • ものづくり研究課 森澤 諭 主査研究員
  • ものづくり研究課 赤田 英里 研究員
  • ものづくり研究課 藪谷 祐希 研究員

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お問合せ先

中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
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