No.23 3Dデジタル機器

デジタルものづくり編

2017年4月21日

昨今、ものづくりの現場においてIoT化の動きが進む中で、3Dプリンタ、3Dスキャナ、CAD・CAM等を用いたデジタルものづくりが注目を集めています。 3Dプリンタを用いた従来工程の代用やこれまでの製法、技術にとらわれない新しいものづくりの実現、CAEを活用にすることによる最適設計等、 今後も多くの分野でデジタルものづくりの導入が進むことが見込まれます。

そのような中で、県や市の公設試験研究機関(以下、「公設試」という。)が各種の3Dデジタル機器を整備し、依頼試験や技術相談等を通じて、 地域企業からの相談に対応するとともに、3Dデジタル機器の活用により企業の課題解決等に向けて積極的に取り組んでいます。

今回のキラリ公設試では、IoT社会に向けて「デジタルものづくり」に焦点をあて、管内の公設試における取組をご紹介いたします。

左から加藤正樹さん、加藤奈央さん、岩月優さん

 

左から加藤正樹さん、加藤奈央さん、岩月優さん

 

愛知県の公設試験研究機関として、産・学・行政の連携による共同研究の場の提供や高度計測分析機器による分析評価など地域企業の研究開発を支援する業務を行っている 「あいち産業科学技術総合センター」(愛知県豊田市)を訪問し、共同研究支援部 主任研究員の加藤正樹さん、同部 の加藤奈央さん、岩月優さんにお話を伺いました。

Q1あいち産業科学技術総合センターでは、デジタルものづくり分野に関連する主な機器は何がありますか?

「知の拠点あいち」に立地するあいち産業科学技術総合センターの本部では、平成25年に「産業デザイントライアルコア」を整備して、 3Dプリンタによる試作支援や3D計測技術に関する技術相談等を推進しています。 3Dプリンタとしては光造形プリンタ(Objet30 Pro・Stratasys社)、粉末焼結プリンタ(sPro 60HD-HS・3Dsysytems社)、 石膏プリンタ(Projet 660Pro・3D sysytems社)を、3Dデジタイザとしては据置型(NextEngine HD pro・3D sysytems社)、 ハンディ型(HS300・Creaform社)を保有しています。なお、産業技術センター(愛知県刈谷市)では、X線CTシステム(inspeXio SMX-225CT・島津製作所)、 3次元デジタイザ(ATOS Standard 520・GOM社)を保有していますので、同センターと協力・連携しながら、企業の課題に応じた支援を行っています。

  • 石膏プリンタ・Projet 660Pr

    石膏プリンタ・Projet 660Pr

Q23Dプリンタの利用状況はいかがですか?

民間のサービスビューローとの差別化を図るために、当センターにおいては、依頼企業が有する課題や3Dプリンタの利用の背景の確認、 さらにはサポート材の除去や用いる材料の適合性等の研究課題を把握するために、来所いただき、face to feceでの面談を行いながらご利用いただくことを基本としています。

実際、コンプレッサ用部品の試作の依頼を受けた際には、ニーズを伺った上で、実際の図面と照らし合わせながら、使用用途に合わせた試作品を提供しました。 このように、単に3Dプリンタを利活用してもらうだけでなく、利用企業に価値があるものにしていきたいという意向を持っています。

  • 石膏プリンタを用いて作成したコンプレッサ用部品の試作

    石膏プリンタを用いて作成したコンプレッサ用部品の試作

Q33Dプリンタや3Dスキャナの具体的な利用事例を教えてください。

瀬戸市近隣の当地域は陶磁器産業が盛んです。ただ、業界では原型師を始めとした担い手や職人が減ってきています。 そこで、3Dプリンタを活用して陶磁器原型への応用及びその原型を用いた試作を支援しました。 まず、3D-CADを用いて所望の形状を作成し、3Dプリンタへのデータ受け渡し時の標準形式である、STL形式のデータファイルを作成しました。 3Dデータで設計するメリットとしては、NC加工機や3Dプリンタをはじめとする自動加工装置との適合性が高いため、形状データが完成すれば、 意図するデザインを正確に試作に反映することが挙げられます。当該設計データをもとに3Dプリンタで作成した造形品を原型として、形状を転写することにより、 石膏の鋳込み型を作製しました。その型に粘土を流し込むことで、デザイン性のある陶磁器を短期間で製造することが可能になることが確認できました。

  • 3Dプリンタによる陶磁器原型の作製について

    3Dプリンタによる陶磁器原型の作製について

  • 三州瓦のスキャンについて

    三州瓦のスキャンについて

また、ハンディタイプの3Dスキャナを用いて高浜市の三州瓦における形状データの収集・保存も行いました。 これまで、瓦の形状については魚拓のような拓本という技法を用いて表面の形状を転写する方法が一般的でしたが、対象物の破損の恐れがあることに加え、 2次元的な写し取り方法であるため、転写部分での高低差に関する情報が含まれないという課題がありました。 そこで、3Dスキャナを用いることで、3次元データとして非接触で保存できるようになりました。

3Dスキャナ・プリンタを用いて文化財の複製の作成も行っており、犬山市「東之宮古墳」から出土した鏡を複製し、鏡面仕上げにすることで出土品を作成当時の状態で再現することにも成功しました。

Q4金属3Dプリンタも導入されたと伺いました。

知の拠点あいち重点プロジェクト2において、「革新的金型製造技術の開発とその産業応用」をテーマにした技術開発を行っており、 3次元冷却構造をもつ金型の製造が目標の一つとなっております。その過程で、高い形状自由度を有することから、金属3Dプリンタの使用を想定しています。

東海地域の公設試験研究機関の中で、金属3Dプリンタを保有するのは現時点(平成29年3月)では愛知県が唯一になりますので、研究成果を県内外に発信していきたいと考えています。

Q5その他にあいち産業科学技術総合センターでの特徴的なお取組みを教えてください。

「知の拠点あいち連携事業」として、愛知県立芸術大学の関口敦仁先生と連携し、大学生の方々とのコラボレーション事業を実施しており、今年度が3年目になります。 従来はデザイン画をスケッチで描かれていた工業デザイナーを目指す学生の方々に、当センターの3D・CGソフトを活用した3次元設計のノウハウを身に着けていただくとともに、 実際3Dプリンタで造形するなど、一連のデジタルものづくりの工程を学んでいただくものです。 関口先生からも参加学生の方々からも社会に出てから実践できる内容を身に着けることができたと大変好評です。

  • 愛知県立芸術大学生の作品

    愛知県立芸術大学生の作品

Q6企業向けにデジタルものづくりに関する研修は実施しますか。

昨年9月に次世代計測加工技術者養成事業として「製品開発のための3Dデータ・3Dプリンタ活用研修」を開催しました。 3Dデータ及びプリンタの概要の講義のみならず、3D・CGソフトを用いた3Dデータの作成から、3Dプリンタによる当該作成データの造形、造形物のポスト処理を内容として2日間にわたる研修内容です。 3Dデータ作成ソフト(ZBrush4R7)の操作過程などで当センターの職員によるマンツーマンの指導実習を採用したため、参加企業を3名(1社あたり1名のみ)に限定しました。 陶磁器メーカーや機械メーカー等に参加いただき、数値を入力して3Dデータを作成するCADとは異なり、ペンタブレット用いるため、直感的な操作が可能で、デザイン性の高いデータが作成できるという評価を受けました。

このような、3Dデータ、製品の作成、取り出しまでの一連の工程を実際に肌で感じていただくことで、企業におけるデジタルものづくりの導入が進み、 生産性の向上や機動的かつ柔軟な商品開発につながればよいと思っています。

  • 3D・CGソフトの使用画面

    3D・CGソフトの使用画面

Q73Dプリンタなどデジタルものづくりについての今後の見通しなどを教えてください。

デジタル計測・加工技術の陶磁器産業への応用を始めとして、伝統的な技術と最先端のプロセス技術の融合により、これまでにない新たな潮流を生み出すことが可能であると思われます。 実際、デジタルものづくりに関する新技術や3Dプリンタ等の機器設備を用いることで、地域企業にとっては、これまで困難であった設計・製造方法を採用することができるようになりました。 さらに、機器設備やCGソフトについても安価なものやフリーソフト等が市場に出てくることにより、これらの機器設備の入手・活用のハードルはここ数年で大きく下がったことと思います。 このような気運の高まりを、これまでの支援事例をもとにPRすることで、企業支援や地場産業への振興につなげていきたいと考えています。

本インタビュー対応者

  • 共同研究支援部 加藤 正樹 主任研究員
  • 共同研究支援部 加藤 奈央 技術補佐員
  • 共同研究支援部 岩月 優 技術補佐員

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お問合せ先

中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
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電話番号:052‐951‐2774
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