2013年12月27日
【今回のキーワード/測定技術】
第6回目は、岐阜県工業技術研究所に伺い、これまで測定できなかった形状を測定するための取り組みである、全く新しい方式「回転振動型の超音波振動」を用いた、ハイアスペクトタッチプローブの研究に取り組んでいる、研究者(西嶋専門研究員)に、お話しを伺いました。
これまでの経験と、企業さんからの相談、そして工業試験場だからこその挑戦などから、今後の研究の発展性についてご紹介します。今回、機械部 西嶋専門研究員にお話を伺いました。
Q1これまで測定できなかったもの(深い細穴、細溝)とは、一体どのようなものなのでしょうか?
(西嶋)
現在、研究所で携わっている業務における依頼試験・開放試験では、精密測定や非破壊検査を主に行っており、「三次元測定器」や「X線CT」などの装置を使っています。その他に、電気系試験(絶縁耐圧試験)なども担当しています。
日々の業務の中、企業さん(金型メーカーさん)からの相談があり、金型のリブや穴、穴の奥の寸法などを精度よく測定したいとのご要望をいただきました。 通常の業務で「X線CT」などの最新の機器等を取り扱い、測定依頼を受けていますので、今までのやり方では測定できないものであることも分かりましたので、まずは、どのように行ったら良いか?から取り組みました。

開発した三次元接触センサと西嶋隆専門研究員
Q2どのような仕組みを使って、これら測定を行うことを着想されたのでしょうか?
(西嶋)
深い穴などの測定では、レーザ光による測定も知られていますが、精度良くとなりますと、やはりタッチプローブによる接触式が主流となります。 タッチプローブは検査工程での「機上測定」(工作機械上で寸法を直接計測する)や「三次元測定」に用いられていますが、 深い細溝や細穴に入り込める細長い形状のタッチプローブが一般に提供されていませんでした。 そこで、先行研究や公開特許公報を調べ、感度よく接触を検出できるタッチプローブとして有効な、「超音波振動を利用したタッチプローブ」の開発を始めました。 xxxx細長い形状のプローブであれば、より多くの形状測定に対応可能となり、測定時のプローブ交換の段取りも減るなどの有利な点もあるため、この方式による挑戦が適当と考えました。
開発したセンサ(タッチプローブ)
従来型のプローブ
新型プローブ(単体)
超音波振動を用いたハイアスペクトタッチプローブに関する研究(まとめ)open_in_new
Q3挑戦にあたっての課題や、現在の状況について教えて下さい。
(西嶋)
困難な測定を行うとのことから始まりました。金型メーカーさんのお話しでは、通常の商取引において、金型の品質保証のための要求測定ポイントには出てこない形状であり、測定できないものでした。 「そのため、まずは作ってみよう、やってみよう」とのところから始めました。
まずは、プローブを作るところから始め、プローブの専門メーカーさんからは、精度も保証もできないものとして、着想した形状のみをオーダーし製作をお願いしました。 これは、公設試験研究機関であることで無理を聞いていただけたのではないかと思いました。
また、その後の着想した方式による研究を進めていくにあたり、研究費の確保も苦労しました。 当然、独自の研究であるため研究費は県費用により行うのですが、研究開始のための準備で数年かかったため、3年後には県費用も認められなくなってしまいました。 幸い、科学技術振興機構(JST)さんのA-step 事業(期間1年)に採択され、継続できましたが、これは企業さんからのニーズがあったことで採択が得られたものと認識しています。
現在の状況ですが、ちょうど今年度にA-step 事業が終了しました。最終報告をこれから出すところですが、おおむね目標としている精度の測定ができている結果となりました。 現在、次の展開を検討しているの状況です。
【岐阜県工業技術研究所サイトより】
- 平成24年度研究所研究報告(第2報) 超音波振動を用いた三次元接触センサに関する研究open_in_new
- 平成23年度研究所研究報告(第1報) 超音波振動を用いたハイアスペクトタッチプローブに関する研究open_in_new
Q4今後の研究の方向性や、企業さんへの展開方策を教えて下さい。
(西嶋)
もともとのニーズである、金型メーカーさんからは、今後の商取引において、自社の品質を証明するためにも必要な測定項目として示して行きたいし、測定できるとなれば、 それを求められることも出てくると言われています。そして、この測定技術により、全ての金型製品のうち80%のものは測定できることになると言われているため、 大きなインパクトがある技術ではないかと思っています。
また、センサの形状や測定原理などの検討の中から、柔らかいものの測定や、柔らかいものの中にある固いものの測定・検出などにも用いることができないかとの活用用途イメージが拡がっています。 今後、金型メーカーさんで社内で測定に用いていただいたり、センサを作られる企業さんとタッグを組ませていただくなどで、新たな計測ニーズに対応した商品化に取り組んで行ければと考えています。
ちなみに、タッチプローブによる形状精密測定は1990年代に盛んに研究された技術と聞きました。
そのため、「今頃やっているのか?」とのご意見もいただいたことがありますが、最終的に開発した「回転振動型」の超音波プローブは他には無い新しい方式であることから、今年度の学会発表では、 「新しいもの」として評価していただけました。また、超音波関連の技術専門誌に寄稿依頼をいただく機会が出てくるなど、今後の展開に自分自身も大きく期待しています。 センサ製造企業様、金型製造企業様と積極的にコンタクトをとっていきたいと考えています。よろしくお願いします。

機械部 西嶋 隆 専門研究員 専門:メカトロニクス、計測技術
取材後記
「測定技術」は、地域の産業・ものづくりを支える基盤技術と言えます。さらに、金型の品質に関わる技術となれば、無くてはならないもの。これからの展開に期待したい研究・技術ではないかと思います。
公設試験研究機関だからこそできること。
企業さんには、ここまでと決めず、じっくりと相談をしていただき、自社の次の展開につながる様な新たな技術の進化に繋げていただければと思います。
そのためにも、単なる相談だけでは、本当にもったいない・・・と思います。
お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
※「スパムメール対策のため、@を■に変えてあります。メールを送信するときは、■を@に戻してから送信してください。