2022年12月14日
経済産業省では「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定するなど、産業界におけるカーボンニュートラル(以下、CNという)への対応やデジタル・トランスフォーメーション(以下、DXという)の推進を行っています。
今回から複数回のシリーズで、中部地域の公設試が、CN・DXに関係するテーマでどのような取組を行っているか、ご紹介していきます。

左から川野さん、岡野さん
富山県の公設試として、技術支援・研究開発・技術情報の提供などを通じて企業の技術力向上と新製品開発を支援している富山県産業技術研究開発センター(富山県高岡市)を訪問し、ものづくり研究開発センターの川野さん、岡野さんにお話を伺いました。今回は、CNをテーマに「セルロースナノファイバー(以下、CNFという)」に焦点をあて、富山県産業技術研究開発センターのCNF製品実証試作ラボをご紹介いたします。CNFは、植物繊維を微細化した天然由来の材料で、軽く・強く・環境に配慮している等の特徴を持ち、製品の軽量化やCO2の排出抑制という観点からCNに対応する次世代材料として産業分野で活用が期待されています。
Q1CNF製品の開発拠点として、国内有数の設備を有しているとお聞きしましたが、CNF製品実証試作ラボの概要について教えていただけますか。
CNF製品実証試作ラボ(以下、ラボという)は、CNFそのものの作製から、CNFと樹脂を複合化した軽量高強度なCNF複合材料の実寸大試作品の作製・評価までを一貫して行うことができる施設です。
「とやまナノテククラスター※1(平成26年度~平成30年度)」で、CNFを複合化した樹脂素材を開発し、その成果から「地域科学技術実証拠点整備事業※2(平成28年度補正)」に全国の公設試で唯一採択されました。既存施設の改修および14の大型設備を導入し、全国でも例がないCNFの開発拠点となっています。ラボは、「素材作製」・「試作加工」・「評価」の3つの工程に大きく分けられ、「素材作製」工程で2つ、「試作加工」工程で8つ、「評価」工程で4つの設備を導入しました。ラボ最大の特徴は、企業の生産ラインにひけをとらない大型設備を完備し、実寸大の試作品を作製・評価できる点にあります。
※1 富山発の「ナノ微細化技術」を、県内ものづくり産業のコア技術と融合することにより、世界的に競争力がある技術や製品を生み出し、次世代ものづくり産業創成のモデルとなることを目指した、文部科学省の事業。
※2 大学・公的研究機関等を拠点として研究室、複数企業及び地方自治体が一つの施設等に結集し、地域で生まれた研究開発成果の地域による事業化の実現により、地域の雇用創出と経済活性化を目指した、文部科学省の事業。
Q2CNF製品の開発および評価に用いられるラボの設備をご紹介いただけますか。
ラボの3つの工程で用いられている代表的な設備をご紹介します。
[素材作製]工程
大型湿式微粒化装置
大型湿式微粒化装置は、パルプの粉末から、高圧の水を利用してCNFを量産する装置です。CNFの原料同士を衝突させることで微細化します。複数回処理することで、高い解繊度のCNFが大量に作製できます。
[素材作製]工程 大型湿式微粒化装置
[試作加工]工程
高混練二軸押出機
高混練二軸押出機は、CNF複合材料の作製を行う装置です。CNF複合材料を作製するため、CNFと樹脂を加熱しながら練ることで、均一に混ぜることができます。押出機内の2本のスクリューを回転させることによって中の材料を押出すことができます。また、真空排気装置を備えており、発生ガスや水分による素材の劣化を防ぐことができます。
[試作加工]工程 高混練二軸押出機
[試作加工]工程
真空射出成形機
真空射出成形機は、CNF複合材料の成形時に問題となる発生ガスや水分を除去しながら成形を行うことができる装置です。軟化する温度に加熱した樹脂に最大100tの射出圧を加えて金型に流し込み、型に充填して成形します。
[試作加工]工程 真空射出成形機
[評価]工程
高機能材料用ナノフォーカスX線CT
高機能材料用ナノフォーカスX線CT は、X線の透過画像をもとに工業製品の内部欠陥を、非破壊で立体的かつ詳細に評価する装置です。評価対象に対して様々な角度からX線撮影を行うため、内部のCNFの分散状態を3次元的に評価することができます。
[評価]工程 高機能材料用ナノフォーカスX線CT
Q3充実した設備をご紹介いただきましたが、ラボの具体的な活用事例を教えてください。
ラボを活用して、現在は主に3つの研究を行っていますので順々に紹介します。
- (1)「高せん断非外部加熱によるCNFの乾燥方法および高混練二軸押出機を用いた乾燥CNF/ポリプロピレン複合材料の開発」
- CNFは高強度、高弾性率といった特徴を有するため、高分子材料との複合材料の開発が期待されていますが、含水状態の材料であるため疎水性の高分子材料との複合化が困難となっています。本研究では乾燥処理したCNFとポリプロピレンの複合材料を作製し、各物性を評価しています。
- 活用機器:高混練二軸押出機、真空射出成形機、高機能材料用ナノフォーカスX線CT
- (2)「CNFを配合した新規生分解性複合材料の開発」(中越パルプ工業株式会社と共同研究)
- 近年、マイクロプラスチック問題が世界的に大きく取り上げられており、自然環境中の微生物によって分解される「生分解性プラスチック」が注目されています。本研究では、マイクロプラスチック問題を解決できる可能性を持つ生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネート(PBS)とCNFを複合化することで、一般的な使用に耐え得る新規生分解性複合樹脂の開発を行っています。
- 活用機器:高混練二軸押出機、真空射出成形機、高機能材料用ナノフォーカスX線CT、フィルム作製装置
- (3)「少量充填CNF-形状制御タルクハイブリッドフィラーの開発と自動車部品への展開」(林化成株式会社、富山県立大学と共同研究)
- 環境負荷低減のため自動車の軽量化が重要となり、金属部品を樹脂部品に置き換える取組が加速する中、樹脂製品の性能向上のための充填材料として無機材料のタルク※3が注目されています。本研究ではタルクの形状制御およびCNFの少量充填により高強度化、高弾性率化等が期待できるハイブリッドフィラーの開発を行っています。(令和3年度サポイン事業※4)
- 活用機器:真空射出成形機、高機能材料用ナノフォーカスX線CT、キャピラリーフローテスター
※3 タルク(和名:滑石)は層状鉱物で、無機鉱物中で最も軟らかく、耐熱性に優れている。
※4 正式名称は、戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(現Go-Tech事業)。中小企業が大学・公設試等の研究機関等と連携して行う研究開発、試作品開発及び販路開拓への取組を最大3年間の支援を行う、経済産業省の事業。
Q4ラボでは今後のどのような取組を行っていきますか。
CNFの拠点としてCNF複合材料の開発はもちろんのこと、SDGs(持続可能な開発目標)に対応した材料開発に焦点を当てて、研究に取り組んでいきたいと考えています。
具体的には、リサイクル性が高いCNF複合材料や環境問題に対応可能なバイオマスプラスチックなどを中心に開発を進めています。新規材料を開発できれば、県内外問わず樹脂成形関係の企業に新規材料を広めていきたいと考えています。また、CNF/バイオマス複合材料に関する研究会やラボ設備の技術講習会も積極的に行っていく予定です。ラボを活用して新規材料を開発し、地域企業中心にCNに貢献する取り組みを広めていきたいと考えています。
Q5ラボの利用は、どのような分野が多いですか。
最も利用が多い分野は、樹脂の成形関係です。CNFやバイオマス材料を複合した樹脂材料の開発を行う企業が多いです。その他は、樹脂の添加剤作製を行う企業の利用があります。
機器開放や共同研究等で利用が多い機器は、大型真空プレス、真空射出成形機、フィルム作製装置、高機能材料用ナノフォーカスX線CTの4つです。
Q6新たにラボを利用したい場合どのようにすればいいでしょうか?ラボの利用方法について教えてください。
ラボは、一つの設備利用から複数の設備利用まで幅広く受け付けております。設備を初めて利用される方であっても、ものづくり研究開発センター職員が立ち会い、設備使用方法のレクチャーや条件出しなど設備利用のサポートを行います。
取扱いが難しい設備は、当初は設備利用料とは別途に技術指導料をいただいてサポートさせていただきますが、複数回の利用によりサポートが不要であると当センターが判断した場合は、設備利用料のみで利用可能です。
それぞれの設備の利用用途はCNFに限定しておりませんので、幅広い材料での利用が可能です。県内企業に限らず、県外企業にもご利用いただけます。
設備利用にとどまらず、ものづくり研究開発センターと研究開発を行っていきたい場合については、共同研究も随時受け付けています。
Q7最後にラボの利用を検討されている方々に一言お願いします。
これまでにCNFと樹脂の混練に関する研究を通して培った情報を企業の方々に、提供していければと思います。昨今、各企業のSDGsの対応が重要視され、サステナブルマテリアル(持続可能な材料)の開発が注目されているなかで、ラボは新規材料の試作や評価のために必要な装置を取り揃えていますので、是非ご活用ください。CNFにかかわらず、樹脂に混練したい材料があれば、まずはお気軽にお電話ください。
本インタビュー対応者
- ものづくり研究開発センター 川野 優希 主任研究員
- ものづくり研究開発センター 岡野 優 研究員
お問合せ先
- 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課
- 〒460‐8510
愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052‐951‐2774
メールアドレス:bzl-chb-sangi■meti.go.jp
※「スパムメール対策のため、@を■に変えてあります。メールを送信するときは、■を@に戻してから送信してください。