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中部発きらり企業紹介 Vol.115

更新日:平成31年1月17日

自動化と職人技の融合により世界最高峰の「美しい魅せる包丁」を製造する

株式会社 大野ナイフ製作所
  • 岐阜県関市
  • 高級包丁
  • 自動化
  • IoT
  • 見える化
  • 工業用特殊刃
スター★ちゅぼっと君
大野 武志 社長の写真
大野 武志 社長
 今回は刃物の町として700年以上の歴史を持つ岐阜県関市において、高級・高品質の包丁を製作されている株式会社大野ナイフ製作所の大野武志(おおのたけし)代表取締役社長にお話をうかがいました。 同社は1本数万円、高いものでは20万円以上の「切れ味のよい美しい魅せる包丁」を製作されています。
 同社は90工程以上ある製造工程をすべて内製化し、機械による自動化と手作業による職人技を見事に融合させ高級包丁の大量生産を可能にしています。また、IoTシステムによる工程の見える化にも社員一丸となって積極的に取り組まれています。
美術工芸品的 同社独自のデザイン包丁
美術工芸品的 同社独自のデザイン包丁
ポケットナイフメーカーから世界を魅了する高級包丁製造メーカーへ
同社の歴史
株式会社 大野ナイフ製作所
株式会社 大野ナイフ製作所
 弊社は私の祖父が1916年(大正5年)に創業し今年で103年目になります。創業した当時から輸出向けポケットナイフを製造していました。 輸出先でのポケットナイフの法規制やプラザ合意などによる為替相場の影響、量販店による価格破壊といった時代の変化の荒波をなんとか乗り越え、現在は貝印株式会社などの有名包丁メーカーの海外向け高級包丁のOEM製造をメインに行っております。

高級包丁開発の動機
 20年以上前の関の刃物屋は典型的な3Kの職場であったため私は家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は東京の企業に就職していました。 しかし、日々サラリーマンとして働く中でこのまま働いていても一生で稼げる金額は決まっちゃっているなという漠然としたもやもやを感じており、関に戻ることを考え始めていました。 関に戻って、価格競争・納期競争にさらされる普通の包丁ではなく世界に1500万人ほどいるといわれている富裕層向けに1本100万円もするような高付加価値の包丁を製造してみようと考えました。 ダメだったらあきらめようと思っていましたが、大学時代のアメリカ留学で海外の富裕層の世界を垣間見たことがあり、1本100万円でもその価値に値する包丁であれば躊躇なく買う層は国内外に一定数いるという確信がありました。 そこで今から40年ほど前に関に戻り高級包丁の製作に試行錯誤を繰り返しました。

高級包丁の開発スタート
 自ら包丁をデザインし、包丁の持ち手に伊万里焼陶器を付けたり包丁の表面にダマスカス模様という日本の和を感じさせる綺麗な模様を出しつつも美術工芸品の様な美しさを兼ね備えたアレンジを施すなど様々なアイデアを出し、弊社でしかできない包丁製作に取り組みました。 特にダマスカス模様はいまでは多くのメーカーが製造していますが、実は20年前に弊社が先駆けて製作しました。
 高級包丁を製造した当初は国内で売り込みに行ったものの高すぎるという理由で誰も相手にしてくれませんでした。そこで海外をターゲットに絞りました。 日本の一流の板前は日本刀を作っている鍛冶屋に20,30万円以上するようなオーダーメイドの包丁製作を依頼する文化がありますが、それに対して当時の欧米のシェフは一流クラスであってもドイツ製のそれほど高額でない切れ味の鈍い市販の包丁を使っていたので、 抜群に切れ味が良くかつ見た目も美しい高級包丁はもの珍しく、市販品が飽きられ始めていたことや忍者ブーム、日本食ブームも相まって弊社の製造した高級包丁が売れ始めました。

旬シリーズ 「初代」
旬シリーズ 「初代」
刃の表面には美しいダマスカス模様が
浮かび上がっている。

旬限定シリーズ 「紫鳳」
旬限定シリーズ 「紫鳳」
大人気高級包丁ブランド「旬」、限定ブランド「紫鳳(しほう)」
 弊社がOEM製造を行っている海外向け高級包丁ブランド「旬」はその品質とデザイン性の高さから世界中で大変人気を博しており、国内外で累計出荷本数が700万本を突破し月間5万5千本を売り上げる貝印㈱を代表する大ヒット商品となっております。 旬シリーズだけで280種類ほどのアイテムを展開しています。また、刃の表面にはダマスカス模様をはじめとした美しく品の良い模様を鍛造などの独自技術で浮かび上がらせ、刃先の研磨、刃付けには職人技を駆使し細部までこだわって製造しています。 品質とデザイン性の高さからナイフ業界において最高峰の名誉とされる「ナイフ・オブ・ザ・イヤー」の「キッチンナイフ・オブ・ザ・イヤー」部門を過去10回受賞しています。最近では日本国内でも人気を得ており、高級百貨店の包丁売り場で対面式での販売が行われています。
 また、「旬」の限定シリーズとして2年に1度「紫鳳」シリーズを製作しています。「紫鳳」は200本限定生産品でデザイン性、品質ともにこだわりぬいて製造する1本20万円ほどの特別な包丁です。 200本限定生産のためそれほど利益は出ませんが、次のデザインができあがっていない段階で多くの注文をいただくほどの人気ぶりで「旬」ブランドの宣伝やブランド力強化につながっています。 特定の同じ商品ばかり製造を行っているとコストダウンのことばかり考えてしまいますが、こういった普段とは異なる製品を製造することで社員にもわくわく感を持って仕事に取り組んでもらうことができますし、何より紫鳳シリーズを心待ちにしていただいているお客様にも大変楽しんでいただけています。
         
すべての工程の内製化と自動化への取組
90以上の工程を内製化

刃先や柄の研磨において人間の感覚が必要な部分は職人が行う。
 関では昔から地場での分業制をとっており大量生産が可能でした。しかし分業制の場合、商品の移動や運搬の作業途中で商品に小さな傷がつく場合があります。弊社の製品は高級品なので目に見えるか見えないかくらいのほんの少しの傷であってもつけるわけにはいきません。 また、関の刃物屋は苦しい時代が長かったため事業承継がうまくいっていないという問題があり外注業者の高齢化や技術レベルの停滞も問題であったため、差別化を計れる様な品質を安定させるために20年前から少しずつ工程の内製化を始めました。 包丁製造には少なくとも90を超える工程がありますが現在ではすべての工程が内製化できており、弊社で一貫して生産が可能です。このようにすべての工程を一貫して生産できる体制が整っているのは関では弊社だけです。 ただ、関の産地を守るためにも昔からお付き合いのある外注業者との仕事は一部続けており、意見交換をすることでお互いの技術レベルを向上させることができています。


溶接工程は機械によって
自動化されている。
大量生産を可能にする機械による自動化と手作業による職人技の融合
 高品質を保ちながら高級包丁を量産することは大変難しいです。しかし海外の高級百貨店などからブランドとして信頼を得るにはある程度のまとまった数量を高品質で安定的に供給する必要があります。 弊社は高級包丁の大量生産を可能にするために職人技を必要としない単純作業については機械による自動化を進めました。機械導入の際にはものづくり補助金経営力向上計画の即時償却の支援措置などを活用しています。
 ドイツなどの海外製の包丁はほとんどの工程が機械化されていますが、機械で高い精度を出そうとして研削加工すると加減が難しく刃先がボロボロになってしまうため、控えめに刃先を研削せざるを得ず切れ味が鈍くなります。 一方で弊社ではある一定のところまでは機械で精度を出し、その後は人間の手によって耳と手の感触を頼りにしながら薄く研磨していきます。
 NC装置で鋼材を粗削りし整えてある程度の精度を出すことで、最初から最後まで人間が作業するよりも工程の平準化が可能になります。また単純作業を自動化することで社員には技術力が必要な一段上のレベルの仕事に集中して取り組んでもらうことができ、全体的な技術力の底上げが可能です。 特に今後ますます深刻になるであろう人手不足の問題に対応するためにも自動化できる部分は自動化し、社員にはよりレベルの高い仕事を任せスキルアップをしてもらい、世界一の包丁をつくっているという責任感とやりがいを持って働いてもらうことが大切だと考えています。

柄の研磨でも機械で
対応可能な部分については自動化。

刃の模様は鍛造で出していく。

工場内には何台もロボットが設置されており、
単純作業はロボットで対応している。
         
IoTによる見える化で商品の供給力を強化

工場内のモニターで工程の進捗状況が一目でわかる。
画面に表示される色1つにしても
現場からの意見を取り入れ調整した。

各現場が持っている読み取りリーダーでQRコードを
読み込むと担当者の情報が瞬時に分かる。
QRコードの配置も現場の意見を取り入れて、
間違ったコードを読まないようにあえて段違いにしてある。
 高級包丁の製造には90~150の工程が必要であり、さらに弊社では常時300種類くらいのアイテムを取り扱っており、1200のロットが流れています。 弊社の製品は世界の名だたる一流百貨店に置いていただいておりますが、欠品が多いとほかの商品にスペースを取って代わられてしまうので需要にマッチした製品の供給力が重要です。 供給力を強化するために段取り改善による生産効率化を図るとともに何か変更があったときにすぐ切り替えられる社内体制をつくるためにIoTを活用した工程の見える化を進めています。 前工程がどれだけ仕上がっていて、後工程が何を待っているか、目標値をどれだけ達成しているかなどの情報を工場内に複数設置されたモニターで一目で確認できる大きなシステムが今年稼働する予定です。

社員みんなでつくるIoT生産管理システム
 2年前に社員3人でIoT推進チームを結成しました。弊社では大量にある工程を整理するために40年ほど前から生産管理システムをオーダーメイドで外注し運用していましたが、どれもトップダウン形式でシステムを構築していたため、何度つくっても失敗していました。 そこで今回はIoT推進チームを中心として社員みんなでIoTを活用した生産管理システムを作りあげています。IoT推進チームの3名にはIoT関連の見本市やセミナーに積極的に行ってもらい最新の情報の収集やネットワーク形成を行ってもらいました。 そこから業者とミーティングを重ねて方向性を決め、実際に現場の社員に使ってもらった上で社内チャットツールを活用して意見をたくさん集め、どんなに小さなことでも検討してとにかく現場が使いやすいシステムを作り上げました。 現場の社員も上から押し付けられたシステムではなく自分たちの意見が取り上げられているシステムであれば抵抗なく使えるはずです。
 生産管理システム以外にもRPA(Robotic Process Automation)を導入して事務作業の簡素化にも取り組んでいます。これまで人がPCを操作して行っていた繰り返しの事務やデータのバックアップといった作業をソフトウェアロボットが代行して自動で行ってくれるため業務量の削減が可能となります。
         
常に新しいことへチャレンジ!
100周年記念包丁を製作
「鵬翼」
「鵬翼」
刃の部分は翼を、柄は鳥の巣をイメージ。
雛であった鵬が飛び立とうとしている情景であり、
次の100年に向かう志の象徴を表現。

「NAGARA-RIVER」
「NAGARA-RIVER」
一般の方がデザインした世界に2本だけの包丁。
1本はデザインをしてくれた方に、
1本は会社エントランスに展示。
岐阜の清流長良川、鮎、鵜飼、河原の石が
イメージされた作品。
 現状にとどまるのではなく開拓者精神を常に持ち続けどんどん新しいことにチャレンジする社風をつくりあげています。「紫鳳」シリーズのようにやったことのない難しいことにチャレンジすることで新たな知識が身に付き技術レベルもあがっていきます。
 2年前に100周年記念事業を行った際には、若手にとにかく色々な経験を積んでもらうため様々な企画を行い、企画の一つとして100周年記念包丁を2本製作しました。 1本は弊社の若手社員からアイデアを募集して製作した「鵬翼」、そしてもう1本は一般の方を対象として全国から賞金付きでアイデアを募集して作成した「NAGARA-RIVER」です。 若手社員が中心となって製作の過程でどうしたらこの形状が実現できるかといったことを試行錯誤してつくりあげていったため新たなノウハウの蓄積ができました。
 新しい取組を行っていくことでお客様から大野ナイフに行けば何かしら面白いこと、見たことのない目新しいものがあると思っていただけます。弊社は製造に特化しているため営業活動は行っていないですが、評判を聞きつけて多くの業界関係者が工場見学に来られています。

工業用特殊刃(丸刃)
工業用特殊刃(丸刃)
今後の取組について
 自社ブランド製品として工業用特殊刃の事業に取り組んでいます。特に忙しい現代社会では外食やお惣菜の需要が増えており、食品加工分野向けの特殊刃の需要が今後伸びていくと予想しています。 食品加工の刃は錆防止のために塩素系の薬品が使用されていたりしますが、弊社は独自の加工技術により錆びにくい刃を提供できますのでそういった薬品を使用する必要がありません。今年は展示会出展も計画しており、売り込みを本格的にかけていく予定です。
         
 企業プロフィール 
  • 大野 武志 社長写真
    大野 武志 社長
  • 企業名
    株式会社 大野ナイフ製作所
    法人番号
    3200001019000
    本社所在地
    〒501-3217 岐阜県関市下有知4164-1
    事業内容
    家庭用、業務用刃物(各種包丁・ナイフ・工業用刃物)製造卸
    創業
    1916年(大正5年)創業
    代表者
    代表取締役社長 大野 武志
    資本金
    2,000万円
    従業員数
    110人
    HP
    株式会社 大野ナイフ製作所 ホームページ外部リンク
    電話番号
    0575-22-3448
         

このページに関するお問い合わせ先

中部経済産業局 総務企画部 情報公開・広報室
住所:〒460‐8510 愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052-951-0535
FAX番号:052-962‐6804

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