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中部発きらり企業紹介 【番外編】

更新日:平成30年1月22日

世界からの受注を目指す、航空機部品の高効率生産拠点

航空機部品生産協同組合
(松阪クラスター)
  • 三重県松阪市
  • 航空機
  • 航空機部品
  • クラスター
 きらりと光る“企業”を紹介する「きらり企業紹介」。今回は番外編として“企業集団”である「航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)」を紹介します。

 クラスターとは本来ぶどうの房を意味しますが、転じて群や集団を意味する言葉として用いられます。経済産業省は「産業クラスター」として、企業や大学、研究機関などが互いに連携し発展を目指す取組を支援しています。

 中部地域には、国から指定を受けた国際戦略総合特区「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」があり、航空宇宙産業の一大集積地の形成を目指しています。大学や大手重工メーカーはじめ、航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)も参画しています。
スター★ちゅぼっと君
 今回は航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)加藤代表理事にお話をうかがいました。同組合は、航空機部品を一括受注・一貫生産するために、航空機部品の生産に携わってきた企業を中心に10社で結成されました。 各社の持つ技術に加え、自動車産業の生産管理・物流ノウハウを取り込み、効率的に航空機部品を一貫生産できる拠点として三重県松阪市に共同工場を整備し、平成29年10月から生産を開始しています。
 航空機部品は高い安全性が求められるため、「Nadcap」認証取得に代表される各種認証手続き、生産管理体制、材料自前手配など、中小企業が個社で対応することが困難な課題も多いのですが、 各社が知恵を出し合ってうまく連携することにより事業拡大を図り、国内外のTier1から広く受注することを目指しています。

【加盟社】
(株)加藤製作所、(株)小池製作所、(株)小坂鉄工所、真和工業(株)、東洋精鋼(株)、平和産業(株)、松阪APM(株)、(株)松原製作所、(株)水野鉄工所、 (株)和田製作所 (五十音順)
発足の経緯
加藤 隆司 代表理事の写真
加藤 隆司 代表理事
 複数企業にまたがる工程を取りまとめて効率的に航空機部品の一貫生産を実現するため、志を同じくする会社が集まって、目標や事業形態などを検討する準備会を平成26年に発足させました。 1年ほど協議・検討を重ねる中で、クラスターとして事業を立ち上げるためには、勉強会のような形態ではなく、より実行力のある体制を整備する必要があるとの結論に至り、事業形態に関する多面的な検討を行った上で、事業協同組合の形態を選択しました。 参画企業が複数県にまたがることから、中部経済産業局から認可を受け、平成27年4月に「航空機部品生産協同組合」を設立しました。
 経済産業省が促進しているクラスターの形成という枠組みで捉えるときは、通称は「松阪クラスター」としていますが、地域近郊に限定して仕事をする事業ではないため、正式名称には「中部」、「松阪」などの地域名を使わず「航空機部品生産協同組合」としました。
 協同組合設立後、共同工場内のレイアウトなど具体的な検討を重ね、平成27年12月に以前は三菱重工業(株)のカーエアコンの工場であった建屋を購入し、平成28年3月より共同工場の整備を開始しました。 整備と並行して、組合員各社では加工設備を据え付け、8月より一部の会社で作業をスタートさせました。共同工場建屋の整備は平成29年1月に無事完工し、3月には竣工式を開催し、これまでお世話になった方々へお披露目しました。 以降、各社毎に設備の設置、Nadcapなどの認証の取得、客先承認等の手続きを行い、11月より一貫生産をスタートすることができました。
 航空機の部品製造においては、製造場所や機械が変更になると部品毎に初品検査を行わなければならないため、操業の垂直立上げとはいかないのですが、各社において必要な手続きを進めております。
航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)外観
航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)外観
竣工式(平成29年3月9日)
竣工式(平成29年3月9日)
 三年前に検討を開始した当初は、“うちの会社は”とか“うちの現場は”と各社の自社工場での長年の知見に基づいた発言が多かったのですが、検討を重ねるうちに、共同工場において効率的に生産を行っていくためには、 各工程を担当する各社との連携を含め、これまでにはない視点で取り組んでいく必要があることを皆分かってきました。これまで3年にわたって協議を重ねたことにより、協同組合の理事会などで闊達に議論できるようになりました。 共同工場を運営するためには、工場建屋の管理だけでなく、製造実務についても検討事項や課題が山積しております。そのため実務レベルのリーダーによる分科会を開催するとともに、組合員企業全社の社長や幹部クラスが出席し、 毎週開催する定例協議会を2年ほど続けており、今後も当面は続けていく予定です。
         
生産体制のしくみ
 これまでの航空機部品製造においては、「のこぎり発注」、「またがり発注」と言われている、機体メーカー(国内重工各社)と各工程を担当する中小企業との間を頻繁にやりとりをする形態が採られていました【図1】。 近年の民間機製造数の増加と共に、双方において煩雑な作業が発生し、物流面でも、会社間を移動する際には傷がつかないようきちんと梱包する必要がありました。 また、熱処理、ショットピーニング、表面処理・塗装などの「特殊工程」の作業を行うためには、国内重工各社の工場に持ち込まなければならない場合があり、作業待ちに長い時間を要していました。
 これらを解消するため、松阪クラスターでは、部品を受注した会社が、自社では担当できない特殊工程等について、担当する会社と連携することで、完成部品として客先に納入する一貫生産体制を整備しています【図2】。 特殊工程を担当する企業が参画することにより、同一工場内であたかも量産部品の「生産ライン」のような仕組を作るとともに、各社の現場が隣り合わせとなったことにより、 工程間の部品の移動荷姿をシンプルにするなど、従来の中小企業の枠組みを超えた取組を行っています。
【図1】
図1
【図2】
図2
         
各種システムの導入
【共通生産管理システム】
 共同工場内で操業する各社が連携して効率よく部品を製造するためには、会社間をまたがる各工程を横断的に管理・運営するための仕組が必要です。松阪クラスターでは、この役割を担うための「共通生産管理システム」の整備を進めています。 平成28年度には進捗管理などの製造工程管理機能を整備しましたが、このシステムは経済産業省の平成28年度IoT補助金※1を活用して構築しました。 平成29年度は各社の製造スケジュールを組み替えて納期までに効率的に生産できるようにするための日程管理機能を整備しています。 今後は、トレーサビリティ等の品質管理機能などを整備し、国内外Tier1から購入品(材料手配から納品までを一貫して行うだけでなく、航空機部品製造に必要な要素を自前で確保する形態)として受注できるようにしたいです。 また、平成29年度はNEDO※2の事業により、将来的に各社のトレーサビリティ情報をシステム的に保管できるようにするための汎用的な機能整備について取り組んでいます。
 このようなシステムは海外Tier1から独自に受注をする上では不可欠な要素ですが、中小企業各社で独自に構築するには知見も資金も十分ではありません。 今回の連携活動を通して各社が共同で整備を進めることで、世界各地の部品メーカーでは一般的となっている購入品として受注するために過不足のないシステムを構築することができると考えています。
 ※1:IoT推進のための社会システム推進事業(スマート工場実証事業)
 ※2:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

【受発注システム】
航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)工場内
航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)工場内
 クラスター内の各社間の受発注にはEDI(専用回線やインターネットなどの通信回線を通して企業間の受発注などの取引手続きを行うこと)を採用しています。 平成26年度の地域イノベ補助金※3で当組合独自のものを構築しました。これは、自動車業界各社で広く使われているEDIをベースに、航空機部品の受発注に必要な要素を付加しました。 航空業界にはSJAC(日本航空宇宙工業会)のEDIがありますが、Tier1である国内重工各社が使用する仕様であり非常に項目等が多いため、中小企業同士の取引で使用しやすいレベルとなるように項目等を調整しました。
 ※3:地域イノベーション協創プログラム補助金(ものづくりネットワーク形成支援事業)
         
航空機産業の難しさ
 一般的に、航空機産業はとても特殊で、新たに参入するには障壁が高いと言われていますが、他産業でも業界特有のルールや規程がありますので、航空機産業だけが特殊ということではないと考えます。 今後航空業界に参入を考える場合は、航空機産業がどのような業界なのかをよく理解して頂くことが必要と考えます。

【部品点数の多さ】
 航空機産業の一番の特徴は、部品の種類が非常に多いことです。自動車産業では部品の共通化などにより種類が集約されていますが、航空機は多品種少量生産です。 新聞記事などにも紹介されていますが、航空機は1機当たりの部品点数が100万点あるといわれていますが、部品の種類も数千から数万点あるのではないでしょうか。 航空機の機体の形状に合わせて専用設計されていますので、パッと見では同一形状に見える部品でも部品番号が異なり、1機に1個しか使用しない部品もあります。 航空機の部品製造では、このような多品種少量生産の部品を効率よく生産していかなければ経営が成り立ちませんので、数点の部品を受注しただけでは採算が取れません。 航空機部品製造に新たに参入するためには、本業でしっかりした財務基盤があるうちに、少しずつ事業を拡張していく必要があると思います。

【トレーサビリティ】
 航空機の場合、運航している機体の部品に不具合が見つかったときには、その部品の製造履歴を顧客や機体メーカーに提供できるようにしておかなければなりません。 部品製造時の様々なデータを保管しておくことが義務づけられています。データはその飛行機が世界各地を現役で飛んでいる間中、ずっと保管し続けなければなりません。 日本初の国産旅客機YS‐11がまだ現役で飛んでいることを考えると、データの保管期間は相当な長さになることは想像に難くありません。

【供給義務】
 航空機産業でも他産業同様に補修部品(交換用部品)の供給義務がありますが、他産業との大きな違いは、その期間です。 自動車は生産終了から10年くらいで部品の供給義務がなくなりますが、航空機産業ではその飛行機が就航している期間はずっと補修部品を供給しなければなりません。 今でも年1回1個だけ発注がくる部品もあります。航空機産業は部品の種類が非常に多く、在庫を持つこともできないので必要な都度作っています。 受注した会社は治工具や図面や各種データなど、製造に必要な情報・ツールを保管しておかなければなりません。

【鉄とアルミの違い】
 自動車の主な材料は鉄ですが、航空機は主にアルミとチタンです。中部地域の製造業は鉄の加工は得意ですが、アルミなどは鉄とは違った加工ノウハウが必要となります。 材料の違いも業界参入の難しさになっていると思います。

【製造現場の管理徹底】
 一言でアルミと言っても様々な合金の種類があるので、厳密に管理しておく必要があります。また、製造不良や材料不適合などで使用できなくなったものが製造中の部品と混ざらない様な管理も必要です。 このような現場管理は、技術力の有無以前の話で、日頃から現場で実践出来ていないといけません。JIS Q 9100(品質マネジメントシステムの規格)など、航空機部品製造に必要な認証をとったからといって、 航空機部品製造基準をクリアしているわけではなく、現場で品質マネジメントの仕組がきちんと運用されているかが大事です。 受注にあたっては、機体メーカーや重工各社のQMS(Quality Management System:品質管理システム) の審査があるので、現場の管理が徹底されていないと受注につなげるのは難しいでしょう。
         
今後の展望
 平成29年10月より特殊工程を含めた各設備が稼働しましたので、まずは組合員各社が現在本社工場で加工している量産部品を共同工場に展開し、稼働率を上げることを考えております。 そのためには部品毎に客先承認や初品検査などの様々な手続きを速やかに行っていかなければなりませんので、各社が協力して取り組んでいるところです。
 私たちはこれまで組合員各社の本社工場において航空機部品製造に長年携わってきましたが、クラスターとしては途に就いたばかりです。 様々な課題を組合員各社が協力して解決し、“注文書と図面さえ渡せば早く安く完成部品が出来上がってくる”くらいの一貫生産体制を作りたいと考えています。 松阪クラスターから世界各地の顧客へ航空機部品を供給することが私たちの目標です。
         
 企業プロフィール 
  • 代表理事 加藤氏 写真
    代表理事 加藤 隆司 氏
  • 企業名
    航空機部品生産協同組合(松阪クラスター)
    法人番号
    7190005010795
    本社所在地
    〒515-0053 三重県松阪市広陽町22
    事業内容
    航空機部品の製造
    創業
    2015年(平成27年)
    代表者
    代表理事 加藤 隆司
    資本金
    4,000万円
    従業員数
    12名(理事10名、職員2名)
    Mail
    apmc@apmc.or.jp
    電話番号
    0598-30-6250
         

このページに関するお問い合わせ先

中部経済産業局 総務企画部 情報公開・広報室
住所:〒460‐8510 愛知県名古屋市中区三の丸二丁目五番二号
電話番号:052-951-0535
FAX番号:052-962‐6804

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