一般的に、航空機産業はとても特殊で、新たに参入するには障壁が高いと言われていますが、他産業でも業界特有のルールや規程がありますので、航空機産業だけが特殊ということではないと考えます。
今後航空業界に参入を考える場合は、航空機産業がどのような業界なのかをよく理解して頂くことが必要と考えます。
【部品点数の多さ】
航空機産業の一番の特徴は、部品の種類が非常に多いことです。自動車産業では部品の共通化などにより種類が集約されていますが、航空機は多品種少量生産です。
新聞記事などにも紹介されていますが、航空機は1機当たりの部品点数が100万点あるといわれていますが、部品の種類も数千から数万点あるのではないでしょうか。
航空機の機体の形状に合わせて専用設計されていますので、パッと見では同一形状に見える部品でも部品番号が異なり、1機に1個しか使用しない部品もあります。
航空機の部品製造では、このような多品種少量生産の部品を効率よく生産していかなければ経営が成り立ちませんので、数点の部品を受注しただけでは採算が取れません。
航空機部品製造に新たに参入するためには、本業でしっかりした財務基盤があるうちに、少しずつ事業を拡張していく必要があると思います。
【トレーサビリティ】
航空機の場合、運航している機体の部品に不具合が見つかったときには、その部品の製造履歴を顧客や機体メーカーに提供できるようにしておかなければなりません。
部品製造時の様々なデータを保管しておくことが義務づけられています。データはその飛行機が世界各地を現役で飛んでいる間中、ずっと保管し続けなければなりません。
日本初の国産旅客機YS‐11がまだ現役で飛んでいることを考えると、データの保管期間は相当な長さになることは想像に難くありません。
【供給義務】
航空機産業でも他産業同様に補修部品(交換用部品)の供給義務がありますが、他産業との大きな違いは、その期間です。
自動車は生産終了から10年くらいで部品の供給義務がなくなりますが、航空機産業ではその飛行機が就航している期間はずっと補修部品を供給しなければなりません。
今でも年1回1個だけ発注がくる部品もあります。航空機産業は部品の種類が非常に多く、在庫を持つこともできないので必要な都度作っています。
受注した会社は治工具や図面や各種データなど、製造に必要な情報・ツールを保管しておかなければなりません。
【鉄とアルミの違い】
自動車の主な材料は鉄ですが、航空機は主にアルミとチタンです。中部地域の製造業は鉄の加工は得意ですが、アルミなどは鉄とは違った加工ノウハウが必要となります。
材料の違いも業界参入の難しさになっていると思います。
【製造現場の管理徹底】
一言でアルミと言っても様々な合金の種類があるので、厳密に管理しておく必要があります。また、製造不良や材料不適合などで使用できなくなったものが製造中の部品と混ざらない様な管理も必要です。
このような現場管理は、技術力の有無以前の話で、日頃から現場で実践出来ていないといけません。JIS Q 9100(品質マネジメントシステムの規格)など、航空機部品製造に必要な認証をとったからといって、
航空機部品製造基準をクリアしているわけではなく、現場で品質マネジメントの仕組がきちんと運用されているかが大事です。
受注にあたっては、機体メーカーや重工各社のQMS(Quality Management System:品質管理システム) の審査があるので、現場の管理が徹底されていないと受注につなげるのは難しいでしょう。