A.小川社長
法人化して間もない頃、「特殊な塗料を発明したが後継者がいない。事業を引き継いでくれないか」との突然の電話がありました。お聞きしますと、その方は様々な可能性を秘めている新しい塗料を発明したものの、事業化に当たって必要な塗装技術を持つ企業を探しているとのことでした。
塗装関係者の間で名が知られるようになっていた当社の事が伝わり、塗装関係に特化して人材育成を行ってきた実績から、様々な塗装のノウハウや設備への知見があり、塗装会社ともネットワークがあるということで、事業化できる企業として見込まれての打診でした。
当社としては、挑戦するなら本業として取り組んでいこうと考え、その方と特許の専用実施権の契約を結び、商標を「ゼロ・クリア」として販売を開始しました。
「ゼロ・クリア」は、環境に優しい無機の塗料で多様な機能を持っています。親水性が高いため、表面に油等の頑固な汚れが付着しても水をかけるだけで汚れを浮かせて洗い流すことができます。また、表面硬度が高いため傷が付きにくく、耐摩耗性に優れ、耐熱性・抗菌性も有しています。
ステンレス等の基材に、ゼロ・クリアをコーティングすることで基材の付加価値が格段に上がります。
初めて商品化に結びついたのは、金属洋食器の産地である新潟県燕市のハウスウェアメーカー11社との契約です。「エコクリーン」というブランドで、ゼロ・クリアをコーティングしたスプーンやフォークなどを販売しヒットしています。
【東京都内喫煙所実証実験】
壁面にゼロ・クリアをコーティング。
落書きが雪の水分で流れ落ち始めている。
【展示会出展風景】
中小企業総合展/外食産業フェア
さらに厨房機器メーカーや外食産業から、厨房のダクトや壁面などの清掃には労力とコストがかかっており、洗剤不要で水をかけるだけで油汚れを容易に洗い流せるゼロ・クリアを適用できないかとのリクエストをいただきました。
トライしてみたところ、厨房関係に使用されている基材のステンレス鋼板は、養生テープが貼られて納入されるため、テープの糊を除去してからコーティングする必要があり、通常考えられる方式ではこの処理にかなりのコストがかかることが分かりました。
支援機関の協力も得ながら研究を重ねた結果、コーティングにかかる時間とコストの削減に成功し、実用化することができました。既に大手食品スーパーや中華料理のチェーン店等に採用されており、施工してから年数を経てもピカピカで綺麗なままです。
当社は、ゼロ・クリアを防汚塗料のスタンダードとすることを目標に、新連携支援事業も活用し、各種展示会に出展しPRしてきました。昨年度あたりから、大手製造業の工場内や高級マンションの壁面などに採用され始め、まとまった注文を受けるなど、機能性の評価と認知度が高まってきました。
設計事務所やデザイナーにも知れ渡ってきましたので、今後の更なる受注拡大に期待がかかります。現在、複数の外食産業チェーンとの商談も進行中です。
一般家庭向けに、この4月からは商社経由で調味料等を載せるキッチン用品が大々的に販売を開始しています。コーティングの依頼を受けた商品には、ゼロ・クリアのロゴマークを付け、それを宣伝材料に様々な用途のオファーがくる仕掛けとしています。
ただ、塗料販売やコーティング加工代だけでは、当社の売上げとしてはなかなか上がっていきませんので、今後は、自社ブランドによる最終商品を販売していきたいと考えており、カリスマ主婦の方との提携など、オリジナルの商品開発をスタートさせる予定です。
また、医療関係や自動車部品など、傷が付きにくい特性や抗菌性を活かした用途はまだまだ多く考えられ、可能性は未知数です。コーティングする基材はステンレスに限らず、鉄やアルミニウム、ガラス、陶磁器なども可能で、現在はマグネシウムへのコーティング技術の開発に取り組んでいます。
ノートパソコンやデジタルカメラなど軽量化が求められる製品にはマグネシウムが使用されており、マグネシウム材の機能強化は市場からも期待されているところです。