Q.再研削の仕事は、基本的にユーザーから修理に出されてくる工具を待つという姿勢になりがちだと思いますが、それだけではなく自らが主体的に動き、新しい需要を作り出すことが重要だということから、経済産業省の施策を活用して新技術の研究開発に取り組まれ、
新商品の開発を手がけておられますが、これはどのような研究なのでしょうか?
A.青木社長

ユーザーに最適な切削工具を提案、作製
特に航空機の部品にはCFRPなど非常に硬い難削材を素材に使う部品が多いため、それを切削加工するのに高価な工具・刃物を用いてもその摩耗が激しく、耐久性の不足から加工工程のわずかな部分にしか切削工具・刃物が保たないという問題があります。
CFRPの最適な加工方法の確立については大学や各種研究機関で研究中ですが、その一方で切削工具・刃物の消耗の早さが工具費のコスト増になり、結果的に航空機部品のコスト高を招く要因の一つとなっています。ここに、切削工具・刃物の耐久性を改善する開発ニーズがあります。
そこで、「従来の切削工具よりも5倍以上の製品寿命を持ち、かつ、サブミクロンオーダーの仕上げ面を創成する切削工具の開発」をテーマとして経済産業省のサポイン事業に申請したところ、必要性が認められ採択されました。
今までは刃物の研究といえばその形状を変えるだけでしたが、この研究は刃物の材料についてSiC(炭化珪素)単結晶を活用しようとしていることが特徴 になっています。
きっかけは、以前にコンソーシアムを組んで産総研や工具メーカー、素材メーカーなど10社ほどでレアメタルレスな工具の開発を3年間かけて行ったことがあるのですが、その過程で刃物に関する材料を研究する機会があり、その重要性を認識しました。
また、名古屋工業大学で電子物性を研究されている江龍教授と知り合いになり、SiCという半導体の単結晶は刃物の材料としても考えられると教えていただきました。この教えを元に、熱伝導率が高く超硬合金の約1.5倍という非常に高い硬度を持ち、
高価なダイヤモンドに比べて安価に大きな単結晶を生成できるというSiCの特徴を活用するため、切削工具の刃先部分にSiCを搭載した切削工具を開発する研究を始めました。
従来の刃物の多くは超硬合金を材料としていますが、これは炭化タングステンとコバルトの焼結体(多結晶)ですので、それを電子顕微鏡レベルで拡大すると表面は凸凹になっています。
それで素材を加工すると摩擦や化学反応の発生により加工素材の組成が変化するという問題や、その切削面が凸凹になり、その結果として製品の内部に歪み(内部応力)が残ってしまい、そこから形状的な割れや折れが発生して劣化するという問題が生じます。
それに対して、SiC単結晶を材料に活用した刃物で加工すれば、切れ刃エッジ部が極めてシャープになり、摩擦や反応性が小さくなることで内部応力を発生させない加工が可能となり、長寿命の部品・製品を作製することとができます。
今までの切削加工の工具は、高精度で削れること、高能率で速く削れること、工具(刃物)の長寿命化という3つの条件を満たせば良かったですが、SiC単結晶を刃物に活用すると加工する素材に負荷をかけず、製品に歪みを残さないという4つ目の条件を加えることが可能になります。
現在の切削加工は、現状の刃物(主に材料が超硬合金)を前提に考えられていますので、大量の切削油が必要であったり、切削加工法や切削条件に大幅な制約を受けることになりますが、SiC単結晶を活用すれば、単純に切ることだけ考えれば加工が可能になります。
現在の切削加工は、その名の通り「切って、削る」という処理ですが、これが「切る」だけになり、「削る」という概念がなくなりますので、この研究は現状の切削加工のあり方そのものを変える可能性を秘めており、実用化すれば今後のモノ作りが劇的に変わるのではないかと考えています。
またSiC単結晶の特徴として、焼結体である超硬合金を材料とした切削工具では限界のあった微細加工の分野でもナノレベルの非常に微小な加工への活用が可能であり、また人体に無害ですので、
精密性と安全性が問われる医療分野への応用を経済産業省の「新連携」施策を活用(人工股関節用加工用の工具、骨の穴あけの際の手術用工具の開発)して取り組んでいます。 このようにSiC単結晶を活用した切削工具の適用・応用範囲は非常に広いと考えています。