「データに基づく全員主役の
『データドリブンな省エネ活動』」
住所:愛知県刈谷市昭和町1-1
事業の概要
○先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカー。
○省エネ改善鈍化対策のため、ベテランの経験・知恵に基づいて実施する現状の省エネから、データに基づく全員主役の省エネに転換。
○省エネベテランの知恵の形式知化、誰でもエネルギー使用量の正常・異常を一目で判断できるシステムの構築、診断表と社内評価によるモチベーションアップにより、全員で省エネ活動に取り組む。
○設備投資不要の改善中心で1ラインあたりの省エネ率1~5%を達成。全社展開により、エネルギー削減量4,500kL~22,500kLの見込み。グループ企業への横展開も目指す。
省エネ取組の主な概要
デンソーの「データドリブン」とは、適時・適切なデータを人・組織に与えることで意思決定を行う事。「データドリブンな省エネ活動」は、省エネの経験・知恵の形式知化、誰でも分かるように標準化することで、ライン当事者自ら省エネ管理する省エネ活動。
データドリブンな省エネ活動のコンセプト
省エネの経験・知恵を形式知化
省エネベテランに、エネルギーロスのポイントをヒアリングし、ロジカルに集約。
4つの目の付け所で整理した「省エネアクション」を作成し、省エネベテランの経験・知恵を形式知化。
省エネベテランの経験・知恵を形式知化した「省エネアクション」
誰でもエネルギー使用量の正常・異常を一目で判断できるよう、実測値である現在の電力の使われ方の棒グラフ上に、予測値であるいつもの電力の使われ方を表記するシステムを構築し、標準化。
エネルギー使用量の正常・異常を一目で判断できるシステム
稼働中の予測値は基準月のデータによる近似線から算出。エネルギー計測装置のデータを1時間単位で抽出し、縦軸電力量(円/時)、横軸生産個数(個/時)の散布図とその近似線を作成(個数ゼロを除く)。
生産個数当たりの予測値の算出
省エネ結果を見える化する「エネルギー診断表」を作成し、毎月の会議で現場の運用改善を報告することでPDCAサイクルを回す。社内のマネジメント評価や社内表彰制度に取り入れ、モチベーションアップ。
エネルギー診断表
省エネ取組による省エネ効果
各製造部での効果
A製造部
エネルギー削減量 158 kL/年(1.3%減)
B製造部
エネルギー削減量 131 kL/年(1.1%減)
C製造部
エネルギー削減量 135 kL/年(3.8%減)
D製造部
エネルギー削減量 70kL/年(1.0%減)
E製造部
エネルギー削減量 11kL/年(1.1%減)
F製造部
エネルギー削減量 10 kL/年(4.9%減)
G製造部
エネルギー削減量 32kL/年(3.7%減)
全社展開時の効果(見込み)
エネルギー削減量 4,500~22,500 kL/年
担当者インタビュー
株式会社デンソー
安全衛生管理部 ファシリティマネジメント室 FM2課 安田 純也さん
2035年のカーボンニュートラルに向けて省エネを推進。大きな改善は既に取り組み、省エネ改善が鈍化。
デンソーでは、18の製造部があり、1製造部あたり1,000~2,000名の従業員が勤務しています。1製造部あたり50~100ラインがあり、それぞれのラインでライン長を配置しています。
当社では、製造部毎に省エネ事務局を設置し、それらを統括する安全衛生環境部と各省エネ事務局で省エネに取り組んでいます。省エネ事務局には、部会長(製造部長)、省エネ推進委員(室長クラス)、省エネ担当推進担当者(課長クラス)と、省エネのベテラン1~3名程度を配置しています。
デンソーの「エコビジョン2025」では、年4%の省エネ改善を目標にしており、順調に目標を達成してきました。次の2035年のカーボンニュートラルに向けて省エネを推進していますが、省エネ事務局から、「これまでの改善の積み上げで精一杯で、4%継続の見通しが立たない」という意見が聞かれるようになりました。
省エネベテランの経験・知恵を共有できていない課題に気づき、属人的な省エネ活動からの脱却を検討。
省エネ改善鈍化対策のため、2018年から、重点的に省エネに取り組みたい1~2製造部に安全衛生環境部の若手職員を現地派遣し、省エネを支援してきました。
この若手職員の現地派遣を通じ、省エネベテランの経験・知恵をライン長に広めることができていない、データを使いこなせていない、という課題に気づきました。
省エネベテランの経験・知恵に基づいて実施する現状の省エネから、データに基づく全員主役の省エネに転換したい。このような想いから、属人的な省エネ活動から脱却するための「データドリブンな省エネ活動」を打ち立てました。これがデータに基づく全員主役の「データドリブンな省エネ活動」に取り組むきっかけでした。
7製造部の省エネベテランに省エネの目の付け所と疑うエネルギーロスを伺い、経験・知恵を形式知化。
「データドリブンな省エネ活動」を実現するために、まず、7製造部の省エネベテランに、省エネの目の付け所と疑うエネルギーロスを伺い、ロジカルに集約しました。
例えば、稼働時に通常よりエネルギー使用量が増加し、エア漏れや圧力設定によるエネルギーロスが疑われるケースの場合、目の付け所は、生産状況の「稼働」とロスモードの「エネルギー増加」、疑うエネルギーロスは「エア漏れや圧力設定」に細分化できます。
省エネベテランから伺った省エネの目の付け所と疑うエネルギーロスは一見多種多様でしたが、このようにケースを細分化し、整理、集約した結果、省エネの目の付け所を16種類に分類できました。この16種類の目の付け所に対し、疑うエネルギーロスを対応させた「省エネアクション」を作成し、省エネベテランの経験・知恵を形式知化しました。
誰でもエネルギー使用量の正常・異常を一目で判断できるシステムを構築。素早く省エネ活動ができるように。
この「省エネアクション」を活用するには、前提として、「通常よりエネルギー使用量が増加している」と気づく必要があります。これについても、従来は省エネベテランの経験・知恵に基づいていましたが、誰でもエネルギー使用量の正常・異常を一目で判断できるよう、システムを構築しました。
エネルギー使用量の正常・異常を一目で判断するためには、いつもの電力の使われ方と現在の電力の使われ方を一目で比較できる必要があります。よって、実測値である現在の電力の使われ方の棒グラフ上に、予測値であるいつもの電力の使われ方を表記するシステムにしました。
例えば、実績値が予測値よりも常に上方に分布している場合はエア漏れが疑われます。1時間だけ実績値が予測値よりも上方に分布している場合はスイッチの切り忘れ等が疑われます。このように、このシステムを活用してエネルギー使用量の正常・異常を判断し、誰でも素早く「省エネアクション」ができるようにしました。
予測値の算出には、散布図の近似線を活用しました。当社では、15年前から製造ラインにエネルギー計測装置を導入しています。基準月のそのデータを1時間単位で抽出し、縦軸電力量(円/時)、横軸生産個数(個/時)の散布図を作成し、その散布図から近似線を作成しました。例えば、近似線が「Y=0.21X+13.6」の場合、Xに1時間あたりの生産個数18個を入れるとY=17.4(円/時)の電力量を算出できます。省エネベテランに相談しながら、このような方法で予測値を算出しました。
診断表で省エネ評価を見える化し、PDCAを回す。社内評価制度の指標に取り入れ、モチベーションアップ。
省エネ活動のPDCAを回すため、毎月の省エネ結果を見える化する「エネルギー診断表」作成のシステムを構築しました。診断表では、「○○円良化」という省エネ評価を表紙に明記しました。従業員のモチベーションアップを狙い、電力量ではなくコストで評価したのがポイントです。製造部が診断表の省エネ評価を見て、省エネ評価の詳細や要因を知りたいと思う仕掛けをつくりました。
この診断表を活用し、毎月、省エネ事務局と生産管理課による省エネ活動確認会で現場の運用改善を報告しています。
以上の「データドリブンな省エネ活動」は、社内の省エネマネジメント評価表の評価基準や社内表彰制度「省エネ優秀賞」の審査基準に反映されています。社内のマネジメント評価や社内表彰制度に取り入れることで、製造部の省エネ活動へのモチベーションアップに繋がっています。
省エネにかかる実績について。
「データドリブンな省エネ活動」は、生産個数取得とエネルギー計測ができていれば、全製造部で取り組める省エネ活動です。
導入した3製造部では、1ラインあたり、1~5%の省エネ効果が得られています。これを全社展開すれば、エネルギー削減量は4,500kL~22,500kLになる見込みです。
使い勝手の良いシステムを構築し、全製造部やグループ企業に横展開。
エネルギー使用量の正常・異常判断システムも診断表作成システムも、プロトタイプは、使い方フローを示し、そのフローに沿って利用してもらうものでした。しかし、少しでも手間がかかると業務が忙しいことを理由に製造部に利用してもらえませんでした。そのため、エネルギー計測データの抽出、エネルギー使用量の正常・異常の算出、診断表作成まで自動化しました。
現在、システムは全てエクセルで構築していますが、エネルギーマネジメントシステム(EMS)と連携し、web上で完結できるようなアプリを開発しています。アプリ開発後は、まず全製造部に横展開しようと準備を進めております。
グループ企業へは、好事例を紹介する形で「データドリブンな省エネ活動」を展開していきたいと考えています。現在、グループ企業の2割が先行してエネルギー計測に取り組みつつあります。まず、エネルギー計測を導入した後、「データドリブンな省エネ活動」に取り組むステップになります。
当社では、カーボンニュートラル等の昨今の潮流により、省エネに対する意識が高まっており、今後も全員主役の省エネ活動を推進してまいります。