中部産商株式会社(三重県四日市市)

「焼成炉のエネルギー効率を3割改善。燃焼効率に関する地道な
データ取得・分析により、品質向上と両立しながら実現」

業種:卸売業(鋳造用耐火物の販売、鋳物用の副資材の販売)

 住所:三重県四日市市東日野町43-1

省エネ活動専門家相談

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鋳造用ストレーナーの製品例
鋳造用ストレーナーの製品例
鋳型への設置イメージ
鋳型への設置イメージ
鋳造用湯口スリーブの製品例
鋳造用湯口スリーブの製品例
鋳型への設置イメージ
鋳型への設置イメージ

事業の概要

○関連会社が製造する鋳造用耐火物(鋳造用ストレーナー、鋳造用湯口スリーブ)を販売。

○鋳造用湯口スリーブの販売量・バリエーションの増加に向けて、エネルギーコストの削減を目指し、 焼成炉のエネルギー効率を向上させる取組に着手。

○製品原料、炉内台車速度、ガスバーナーの燃焼時の酸素比率を徹底研究。技術顧問と社長の二人三脚でデータ分析を試行錯誤し、改善を図る。外部人材から、アドバイスや補助金情報を得る。

○焼成炉に関する省エネ活動で、エネルギー消費量削減261㎾・省エネ率31.2%を達成。鋳造用ストレーナーを生産する焼成炉のデジタル化も図り、エネルギー効率改善と品質向上の両立を図る。

省エネ取組の主な概要

トンネル式焼成炉の焼成工程における燃焼効率向上

トンネル式焼成炉において、下記3点を実施。
●空気比調整(ガス空気量を見える化し、m値※を見出し、排ガス損失を低減。m値0.77~0.83に設定)
       ※m値 バーナーへの実際の空気量と理論空気量の比率
●炉内台車速度(台車速度を上げて生産性向上させ、炉からの固定熱損失を低減)
●セラミックス原料探索(焼成で割れやたわみが発生せず、低温で焼成できる新原料を探索。
            スリーブ炉内温度 1,180℃→1,085℃。4年間で5回探索)

トンネル式焼成炉の構成、改善ポイント

トンネル式焼成炉の構成、改善ポイント

取組のスケジュール

燃焼効率向上に並行して、鋳造用ストレーナーの乾燥炉のエネルギー転換、圧縮空気の高効率化供給、 照明のLED化も進めている。
取組のスケジュール
乾燥炉のエネルギー転換に向けた設備更新

鋳造用ストレーナーの乾燥炉を、ガスバーナーから電気遠赤外線にエネルギー転換。
2015年度 ものづくり補助金を活用。

設備更新のイメージ

設備更新のイメージ

省エネ取組による省エネ効果

各設備の更新による効果

 年間省エネ量 261㎾/年
 省エネ率 31.2%減[836㎾→575㎾]
 投資回収年数 5.1年

※乾燥炉のエネルギー転換
 年間省エネ量(原油換算) 15,350L/年
 省エネ率 52.0%減[29,550L→14,200L]
 投資回収年数 12.8年

事業所全体の成果

※イノウエ(関連会社)四日市工場における効果[2016年→2019年]
 年間省エネ量(原油換算) 162.2kL/年
 省エネ率 26.8%減[605kL→442.8kL]
 生産エネルギー原単位 28.2%減

担当者インタビュー

代表取締役 井上 幸次様

中部産商株式会社
代表取締役 井上 幸次 さん

省エネの取組推進のきっかけ

販売量・バリエーションの増加に向け、エネルギーコストの削減を目指すことに。

 当社は卸売業に該当し、鋳造用耐火物や鋳物用の副資材などを販売しており、関連会社のイノウエが鋳造用耐火物を製造しています。鋳造用耐火物として、イノウエでは、鋳造用ストレーナーと鋳造用湯口スリーブの2点を扱っています。
 鋳造用ストレーナーは、鋳物の生産工程で発生する不純物を除去し、空気の流量を安定させるフィルターで、自動車部品など高い精度が求められる鋳物製品を製造する際に使用されます。ニーズに応じて穴の数や大きさなどを金型や成型方法によりオーダーメイドで微調整できるのが当社の強みで、付加価値の高い製品です。
 一方、鋳造用湯口スリーブは大型鋳物を製造する際に、溶けた金属の通る道の形成・保護の目的で使用されるパイプ状の製品です。鋳造用ストレーナーに比べ、形状がシンプルであるゆえに安価であるため、生産コストに占めるエネルギーコストの割合が大きく、中には30%に及ぶ製品もあります。
 近年、鋳造用湯口スリーブの販売量が増加し、バリエーションを増やす必要が出てきたことから、エネルギーコスト削減を目的として、本格的に省エネに取り組むことになりました。

鋳造用湯口スリーブを専用で生産する焼成炉について、エネルギー効率改善の取組に着手。

 従来、当社の製品は、四日市市といなべ市の各2工場にトンネル式焼成炉があり、鋳造用ストレーナーと鋳造用湯口スリーブを同じ温度条件で生産していました。しかし、鋳造用ストレーナーは密度が高い一方、鋳造用湯口スリーブは大きな空洞があり、「異なる特性の製品を同じ条件で焼成するので、無駄なエネルギーを消費している」と専門家から指摘されたことで、設備更新を決断。
 いなべ工場の焼成炉を廃止し、「2012年度 円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進事業補助金」を活用して鋳造用ストレーナーのバッチ式焼成炉を導入。2015年より四日市工場のトンネル式焼成炉を鋳造用湯口スリーブ専用で使用し、エネルギー効率改善に取り組むようになりました。

取組推進のポイント

製品原料、炉内台車速度、ガスバーナーの着火時の酸素比率を徹底研究し、改善を図る。

 エネルギー効率改善のため、製品原料、炉内台車速度、m値(バーナーへの実際の空気量と理論空気量の比率)の3点について徹底研究し、改善を図りました。
 まず、原料については、以前は鋳造用ストレーナーと同じ炉で製造するため、温度を1,180℃に設定していましたが、1,085℃に設定してエネルギー消費量を下げる条件に切り替えたのですが、品質向上を図りつつたわみや割れが発生しないよう原料を探索しました。4年間で5回探索した結果、理想の原料が設定できました。
 速度については、トンネル炉を通す時間を平均2時間から平均1時間(最大45分)に条件変更。条件に合ったガスバーナーの炎の付け方を研究し、入口付近では太く優しい炎を、中ごろでは細くて強い炎を、2段階で変えることで、エネルギー消費を抑制しながらも十分火が通るようになりました。
 ガスバーナーの燃焼時の酸素比率を示すm値は、空気が入り過ぎると余分な空気を温めるためにエネルギー効率が悪くなってしまう一方、空気が少ないと燃焼不十分で温度があがらないと言われます。ここでは、炉の中でも空気が入り込むため、m値を可能な限り小さくして燃焼時の空気量を少し減らす設定にしています。

技術顧問と社長の二人三脚で、エネルギー効率改善に有効なデータ分析を試行錯誤し、成果を上げる。

 三重県の高度化人材派遣事業を活用し、採用した大手メーカーOBを技術顧問に迎えて、取り組み始めた2015年当初から、私と技術顧問の2人で焼成炉のエネルギー効率改善に有効なデータの取得・分析を行ってきました。技術顧問は大手メーカーで工場長も務めていたこともあり、工場のデータ取得・分析をされていたので、有効なデータの取り方や分析についてよくわかっています。
 データを取得しておくと、過去にさかのぼることができます。例えば、成果が出なかったとき、何がだめなのか、数年前の数字と直近の数字を比較しながら考えることができます。
 但し、データの取得・分析は、本当に地道な作業です。失敗したことも多々あります。炉の条件を変えるだけでも時間を費やすので、実際は一定の成果を出すまでに4年ほどの歳月を費やしました。さらなるエネルギー効率改善に向けて今も研究中です。

様々な外部人材を活用し、アドバイスや補助金情報を得る。

 省エネ活動を進めるに当たり、いろんな方からご指導いただきました。原料の探索については、以前から助言をいただいていた三重県工業研究所 窯業研究所に協力を得ました。他にも、中小機構や省エネルギーセンターなど産業支援機関から紹介された専門家には、今でも継続して来ていただいております。
 いろんな人がおられると、いろんな情報を得ることができます。補助金情報について、産業支援機関から情報入手することも多く、2015年にはものづくり補助金を活用し、鋳造用ストレーナーの乾燥炉をガスから電気遠赤外線にエネルギー転換しました。
 また、特殊な製品を扱うニッチな業界であるため、様々なニーズを直接聞くことができるように、展示会に積極的に出展するなどして、メーカーや商社などいろんな人とコミュニケーションを取ることに努めています。

取組効果、今後の課題

省エネにかかる実績について。

 トンネル式焼成炉に関する省エネ活動では、主に3点の取組を通じて2016年から2019年の3年間で261㎾のエネルギー消費量削減を達成し、省エネ率は31.2%となっています。また、設備の投資回収年数は5.1年で、すでに投資回収が済んでいます。セラミックの焼成とセラミックスの焼成と品質向上を両立させた取組として評価され、2021年に省エネ大賞 資源エネルギー長官賞を受賞しました。
 30年前に比べると同業他社の事業撤退が相次ぎ、海外製品の進出が懸念されます。価格競争が進むと市場規模が小さくなる懸念があるので、今後も国内生産にこだわり、取引先のメーカーのニーズにきめ細やかに応えながら、エネルギー効率改善に努めていきます。

鋳造用ストレーナーを生産する焼成炉のデジタル化を図り、エネルギー効率改善と品質向上の両立を図る。

 鋳造用ストレーナーを生産するバッチ式焼成炉についても、エネルギー効率改善に向けたデータの取得・分析を進めており、2022年度のものづくり補助金(デジタル枠)を活用し、紙ベースで管理していたデータをデジタルで取得できるよう、生産設備の更新を進めています。ベンダや制御盤メーカーと綿密な打合せを進めながらデータ取得を検討し、2台所有するバッチ式焼成炉で条件変更したものと元々の設定値のものを比較しながら、改善に向けた研究を進めています。
 製品の品質を担保しながら焼成炉のガス使用量をいかに下げられるかは、カーボンニュートラルが求められる現在において当社の重要課題であり、カーボンニュートラルの取組について詳しく問われる取引先も増えてきました。これからも、地道に研究を重ねていくつもりです。

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