「自分たちでできる省エネの取組活動から省エネ診断、補助金活用
による設備更新と、継続的かつ着実に省エネ活動を実践」
住所:愛知県一宮市三条字天神西29番地
事業の概要
○ストレッチパンツ等で使用される混紡生地の染色加工を主に実施。
○「洗う」「染める」「仕上げる」の各染色工程において大量の熱を消費することから、エネルギー削減と地球温暖化対策への貢献も目指し、2014年ごろから自主的な省エネ活動を取り組む。
○スチーム暖房から赤外線ヒーターへの切替、DIYに染色機の保温、省エネ診断の実施など、省エネ活動を継続する中で、設備更新の必要性を実感し、「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金(エネルギー使用合理化等事業者支援事業)」を活用。4つの設備更新を実施している。
○自主的な省エネ活動や設備更新を通じて、活動前と比べて原油計算で年間590kⅬ削減、約15%の省エネを達成。省エネや原単位の改善が環境配慮の本質と捉え、継続して省エネ活動に取り組む。
省エネ取組の主な概要
染色機から発散する熱を減らすため、断熱材で染色機を覆っている。
社員で染色機に断熱材を設置している様子
LPG を燃焼させて熱風を作り、布地を熱処理する設備を導入。排気からの高温排熱を、熱交換器を介して回収し再利用することで、LPG 消費量を削減。
システム改善イメージ
熱回収式熱処理機
用水を蒸気加熱し熱湯を作り、布地の汚れ除去をする製練機において、他設備からの温排水(未利用熱)を回収し給水に利用することで、昇温に必要な蒸気の使用量を削減。
システム改善イメージ
未利用熱を製錬機に送るパイプ
高圧染色機のポンプモータをIE3 型に更新し、流量制御用にインバータを設置することで、電気使用量を削減。
システム改善イメージ
熱回収式熱処理機
昔から使っていた150kWの変圧器3台を、500kWのトップランナー型変圧器に変えることで、変圧時の損失を削減し、電力量を削減。
システム改善イメージ
高効率型変圧器
C重油のボイラーから、都市ガスを利用する高効率ボイラーに設備更新。
旧:C重油の炉筒煙管ボイラー
新:都市ガスの貫流ボイラー、都市ガスの取込口
省エネ取組による省エネ効果
(生産量変動による補正値)各取組による効果
※自主的な省エネ活動による効果
年間省エネ量(原油換算) 120kL/年
※エネルギー使用合理化等事業者支援事業による効果
(熱回収式熱処理機の導入/精練機への未利用熱の回収、再利用/
高圧染色機ポンプモータの高効率化/高効率型変圧器の導入 の合計)
年間省エネ量(原油換算) 計470kL/年(工場全体の11%に相当)
投資回収年(目標値) 7年
事業所全体の成果
※一連の省エネ活動による効果
年間省エネ量(原油換算) 590kL/年(工場全体の15%に相当)
※地球温暖化ガス排出量削減効果
省エネ取組前 9,893t-CO2/年
↓
省エネ取組後 8,951t-CO2/年
↓
ボイラー燃料転換後 6,497t-CO2/年
削減効果 3,396t-CO2/年
担当者インタビュー
艶清興業株式会社
代表取締役 大島 清司 さん
エネルギー消費の大きい染色工場において、2014年ごろから省エネ活動に取り組む。
当社は、ファッション衣料の中でも、ストレッチパンツ向けの生地の染色加工をメインに行っています。複数の材料の混紡で織られた布を染めることが多いのですが、それぞれの材料に適した染料が必要となるのに加え、きれいな色合いに染めるのが難しく、特殊な技術を要します。
染色には、大きく分けて「洗う」「染める」「仕上げる(着心地のよい風合い)」の3工程があります。これらの工程全てが大量の熱を使います。90℃の温水で生地の汚れを洗い落とし、130℃の高温高圧熱水で染料と生地を結合させることで染色、その後、風合いを出すため薬品を付けて乾かします。どの工程でも、濡らした後、乾燥する作業を行っています。さらに、最後に180℃の熱風で繊維の物性を固定させることで、「着用中はしっかりと伸縮する」「洗濯しても縮まない」という相反する2つの要求に満たす生地に仕上げます。
このように、染色工場はエネルギー消費がきわめて大きく、当社の場合、工場の支出コストの約3割をエネルギー費が占めています。エネルギー削減は当社においては大きな課題であり、環境負荷低減による地球温暖化対策への貢献も意識し、2014年ごろから自主的な省エネ活動を取り組むようになりました。
スチーム暖房から赤外線ヒーターへの切替で大幅な省エネとコスト削減を達成し、省エネの重要性を強く実感。
まず着手したのが、工場内のスチーム暖房を撤去し、赤外線ヒーターに切り替えたことです。当時、休み時間だけではなく、帰宅後もずっとつけっぱなしにしていていました。その状況を問題視しないぐらい、当時は省エネに対する意識が低かったのだと今では思っています。
きっかけは、新しく入社した社員が「蒸気代が高いので、他の暖房に変えた方がいいのでは」と提案したことから。一部の社員からは、取り組まずに現状維持でいいのでは、という声もありましたが、設備更新の一環として、私が切り替えることを判断し、実行しました。
すると、ボイラーの重油が1日あたり1kⅬ減と、工場全体の重油の使用量の約1割の削減につながり、金額にすると1ヶ月100万円の削減につながりました。この時、私は省エネの効果や重要性を強く実感し、取組意欲を持つようになりました。
DIYで染色機の保温を実施。室内温度の低下を現場で実感することで、省エネ活動の重要性を認識。
次に、染色機から発散する熱を減らすため、断熱材で覆い、保温する取組を行いました。染色機では130℃の高温高圧熱水を使っているため、当時は冬でも半袖で作業できる職場でした。
機械から無駄な熱が逃げているので、「熱を逃がさないよう、とにかくやってみよう」と、現場の人たちで、グラスウールや金網ネットなど材料を購入し、DIYで作業に取り組みました。
保温に取り組んだ結果、室内温度が確実に下がり、現場の人が上着を着始めました。こんなに無駄な熱が逃げていたのかと現場で効果を実感することで、省エネ活動の重要性を認識することができました。
なお、専門家にはエネルギー削減効果について、作業後に計算してもらいました。逃げる熱が減る分、蒸気を加熱するエネルギー量が減り、コスト削減効果も大きい結果になりました。ただ、現場の人には、自分たちで作業をしたり、室内温度の低下を体感したりすることの方がより実感できたように思います。
省エネ診断を経て、設備投資を決断。専門家の協力を得て申請書を作成し、補助金で4つの設備更新を実施。
その後、専門的な測定器具を用いた省エネ診断を実施しました。省エネルギーセンターから派遣された専門家が、ボイラー効率や照明、配管保温など、工場の省エネ状況に関する診断結果をもとに、ビジュアル化された分かりやすい資料と改善提案を提示されたことで、省エネへの意識がより高まりました。
また、さらなる省エネのためには⼀定の設備更新が必要と思うようになり、生産性、採算性を含めて社内外で検討を重ね、補助金を申請し、設備更新を進めることを決断しました。
補助金申請の1年前から準備に取りかかり、専門家に依頼し、各設備の消費エネルギー量(理論値と実績値の両方)の把握、設備更新後の消費エネルギー理論値の計算、設備メーカーや商社への相談を経て、補助金の内容を検討。複数年度にわたる「エネルギー使用合理化等事業者支援事業」に申し込み、2018年に採択されました。
事業では、熱回収式熱処理機の導入、精練機への未利用熱の回収・熱利用、高圧染色機ポンプモータの効率化、高効率変圧器の導入を2年間の事業期間で行っています。
その後、更なる省エネ、地球温暖化ガス排出量の削減に向けて、「令和2年度天然ガスの環境調和に資する利用促進事業費補助金」を活用し、長年使用していたC重油の都市ガス炉筒煙管ボイラーから、都市ガスの高効率の貫流ボイラーに更新しています。
得意分野の異なる専門家に適宜相談し、知見を得る。
省エネに取り組もうとした当初は、具体的に何をしていいか、まったく知識を持っていませんでした。いろんな専門家と知り合い、アドバイスをもらうことで、省エネ活動を進めることができたように思います。
省エネルギーセンターに紹介いただいた専門家にも、様々なサポートをしていただきました。チラシで見るだけでは、なかなかお願いしづらいかもしれませんが、当社は省エネ活動を進める中で紹介いただきました。専門家にアドバイスいただくのは、いつも新たな気づきがあるので、本当に効果的です。
今では、これまでに知り合った専門家4名ほどに適宜、省エネについて疑問に思ったことがあれば聞くようにしています。染色機械に特化した人、工場全体のシステムについて理解している人など、専門家の省エネに関するテーマは様々なので、色んな人に聞いています。
省エネにかかる実績について。
補助金事業で行った4つの設備更新を通じて、工場全体の省エネ率として約11%減を達成し、目標値を算出した当初とほぼ同じ成果が出ています。目標通りに進めば、設備更新後7年で投資回収が実施できる見込みです。また、自主的な省エネ活動と合わせると、省エネ活動前と比べて原油計算で年間590kⅬ削減し、約15%の省エネを達成しています。
また、一連の取組を通じて、2021年には省エネ大賞 省エネルギーセンター会長賞を受賞しました。
染色工場において、エネルギー価格の高騰は事業活動に多大な影響を及ぼします。一方、エネルギーコストを商品価格に転嫁するのは決して容易ではないため、エネルギー価格の高騰が継続する状況を考えると、様々な省エネ活動に取り組んできて良かったと、今は思っています。
省エネや原単位の改善が製造業における環境配慮の本質と捉え、継続して省エネ活動に取り組む。
省エネ大賞の受賞で、得意先から特別に評価されることはなく、事業活動に大きな変化はありません。そういう意味では、ファッション業界はいまだ省エネとの馴染みが薄いのかもしれません。
しかし、当社は製造業として、環境配慮の本質は第一に省エネや原単位の改善であり、省エネ活動に継続して取り組むべきだと思います。製造することで収益を得る私たちにとって、省エネ活動には普遍的な価値があると捉えていますし、事業継続のためにも、続けていきたいと考えています。