トヨタ自動車株式会社 高岡工場(愛知県豊田市)

「新たな着眼点により、製造、製造技術、原動力(インフラ)の
協業で省エネ活動を推進」

業種:製造業(自動車の製造・販売)

 住所:愛知県豊田市本田町三光1

コストダウン

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トヨタ自動車工場の配置
トヨタ自動車工場の配置
高岡工場で取り扱っている車体
高岡工場で取り扱っている車体

事業の概要

○グローバルに展開する国内最大手の自動車メーカー。

○エネルギー消費の大きい塗装に着目し、設備更新の時期の迫る塗装ラインがある高岡工場で省エネ活動を実施。製造部門、原動力部門、製造技術部門が三位一体で取り組む。

○発想の転換による省エネ効果の高い設備への更新、製造現場とエネルギー供給部門の密な連携による設備更新、他のラインや生産工程での応用展開検討などにより、取組を広く展開。

○塗装工場の7ラインへ展開し、CO2を65,989トン削減。従業員全員が関連会社やグローバルメンバーと共に教え・教えあう取組により、「全員参加の省エネ」の推進を目指す。

省エネ取組の主な概要

塗装工程をターゲットに、製造・生技・原動力の3部署で協業

工場からのCO2排出量割合で最も多い塗装工程をターゲットにモデルラインを設定しし、製造・生技・原動力の3部署で協業する「三位一体」での省エネ活動を展開。

工場におけるCO2排出の割合
工場におけるCO2排出の割合
3部署の強みを活かした活動
3部署の強みを活かした活動
蒸気加温について、新しい視点から改善提案

蒸気加温についてエネルギーの有効性を示すエクセルギーの観点から考察。
燃料から蒸気を生成し、工場設備を40℃に加温する場合を考えると、燃料の本来持つ有効エネルギーが、燃焼・変換・熱交換・減圧等のロス経て、76%ものエクセルギーを損失していることを確認し、蒸気加温はエネルギーの使い方として非効率と判断し、新しい視点からの改善提案を検討することになった。

蒸気加温に関するエクセルギー(質)の検討

蒸気加温に関するエクセルギー(質)の検討
塗装工程における「蒸気レス」を主眼とした省エネ活動

塗装工程における「蒸気レス」をキャッチフレーズに、付帯加温設備の加温レス、前処理加熱熱源の再構築、塗装用ブース空調の蒸気レス、エネルギー週報の運用を実施。

塗装工程のフローと蒸気使用場所、省エネ活動

塗装工程のフローと蒸気使用場所、省エネ活動
油水分離槽(付帯加温設備)の改善

前処理の脱脂工程において、40℃の循環水を更に蒸気で80℃の高温加熱し、油分のみを浮かせて分離する方法から、遠心分離方式を採用し、水と油の比重差を利用し蒸気加熱レスで分離する方法に変更。

油水分離槽の改善

油水分離槽の改善
塗装ブース用空調機の改善

加熱源を蒸気からバーナに変更。切替試運転時に、空調機内各機器の制御タイミングの整合を緻密に取ることで、制御の振れを解消し、制御途中の温めすぎや冷やし過ぎを解消し、更なる省エネも実施。

塗装ブース用空調機の改善

塗装ブース用空調機の改善

省エネ取組による省エネ効果

各工程での効果

 エネルギー削減量 127 kL/年
 CO2削減量 355 トン

※塗装ブース用空調機の改善
 エネルギー削減量 1,532 kL/年
 CO2削減量 3,289 トン

工場全体での効果

 エネルギー削減量 4,464 kL/年(39.6%減)
 CO2削減量 11,978 トン

 エネルギー削減量 17,879 kL/年
 CO2削減量 65,989トン

担当者インタビュー

トヨタ自動車株式会社
プラント・環境技術部 生産環境室 CN推進G 田村 慎一郎 さん

担当者インタビュー
省エネの取組推進のきっかけ

エネルギー消費の大きい塗装に着目し、設備更新の時期の迫る塗装ラインがある高岡工場で取り組むことに。

 トヨタ自動車の工場は、完成車を作る工場と自動車部品を作る工場の2つのタイプがあり、高岡工場は前者に該当します。
 工場のCO2排出量のうち、24%が塗装工程を占めており最も多くなっています。特に、完成車を作る工場においては、塗装工程がエネルギー消費の約半数を占めています。そこで、塗装にフォーカスして省エネ活動に取り組むこととなり、中でも高岡工場の塗装ラインの1つがライン再立上げをしたばかりで、原動力ゾーンからの距離が最も離れている高岡工場の第2ラインで最初に取り組むこととなりました。
 また、塗装を「環境」という切り口でみると、省エネに加えて、排水処理、資源循環(産業廃棄物)、大気汚染防止(塗料が蒸発することでVOC [揮発性有機化合物]が発生する)と、多方面で環境に負荷を与えている工程とも捉えられます。よって、塗装ラインは環境負荷低減というテーマでは以前より注目度が高かったことも、最初にフォーカスを当てて取り組みやすかったように思います。

「トヨタ環境チャレンジ2050」の発表を受けて、製造部門、原動力部門、製造技術部門が三位一体で取り組む。

 当社の省エネ活動は、工場で実際に車を作っている製造部門に加え、工場におけるエネルギー供給を一括担当する原動力部門、設備を設計し製造部門へ導入する製造技術部門の3つの部門が参画しています。私は原動力部門に所属しています。
 リーマンショックの時代から、製造部門と原動力部門が協業で省エネ活動を進めていましたが、省エネについて本格的に取り組むようになったのは、2015年の「トヨタ環境チャレンジ2050」の発表以降になります。
 以前は、製造部門と原動力部門が歩み寄りながら少しずつ省エネ活動を進めていましたが、工場における高度な省エネ活動を推進するには、安全性や品質、原価への影響など、これらの部門だけでは状況判断が難しいこともあります。そのため、設備計画を担う製造技術部門にも参画し、三位一体で関係者全員が同じ考え方に基づき、ベクトルを合わせて活動しています。

取組推進のポイント

発想の転換で油水分離槽のエネルギー消費を99%削減。廃棄物減容化、コスト削減など、相乗効果も大きい。

 以前は油水分離槽の油分を除去する方法として、槽内に溜まった油分を40℃の循環水を、蒸気で80℃に高温加熱し、油分のみ浮かせて分離していました。
 物質同士を分離する方法はいろんな方法があります。採用した遠心分離方式は、水と油の比重の違いを利用し、油を物理的に除去する方法で、蒸気で油分を浮かすのとは発想が全く異なります 蒸気加熱レスで分離することで、油水分離槽におけるエネルギー消費は99%減になっています。また、強熱源をなくしたことで、温度制御が楽になっています。
 また、相乗効果として、分離精度の良い遠心分離により油分を分離することで、産業廃棄物(廃液)の減容化にもつながっています。さらに、使用する洗浄剤、製造工程において車体表面に付着した鉄粉も、油分とともに個々に分離できるため、除去した洗浄剤の再利用による購入費削減、鉄粉のスムーズな除去という効果もあります。

製造現場のGOサインを受けて、エネルギー供給と製造の部門が密に連携しながら、設備更新を図る。

 エネルギー効率の高い省エネ活動を進める上で、原動力部門が製造技術や製造の部門と密に連携しながら、微調整を行っていくことが重要です。
 特に、設備更新を伴う省エネ活動は、実際に生産している工場で行うため、製造部門がリスクを負うことになります。例えば、塗装ブースの空調機の改善事例では、蒸気コイルを取り外し、ガスバーナーを設置する作業を、休みの期間に集中して行いましたが、仮にトラブルがあって塗装ができなくなると、生産ライン全てが止まってしまいます。
 製造部門がそのような状況を理解し、原動力部門の提案に対し、「設備を導入してもらって構わない。こちらでリスクを取るから」と判断を下したキーパーソンがいたことで、空調機の改善はスムーズに進みました。
 また、更新した設備を稼働しても、最初から100点満点では立ち上がらないものです。80点レベルの稼働を繰り返し、チューニングをしていく形で進めます。空調機の改善事例においても数ヶ月、原動力部門も何度も現場に立ち会い、運転状況を確認していました。

エネルギー供給部門が、塗装工場の取組を他のラインや生産工程で応用展開することを検討。

 成果の出た省エネ活動を社内で展開することも、とても重要です。しかし、製造や製造技術の部門では担当しない現場を掌握していないので、塗装工場で得た省エネ事例が他の現場で適用ができるかどうかを判断するのは難しいものです。
 ここで、原動力部門が塗装で得たアイデアを応用できないかを検討し、提案していきます。具体的には、塗装での事例を「着眼点シート」にまとめ、まずは他の塗装工場の中での展開を考えます。その後、アイデア自体が鋳造など他の工程にも横展開できるかどうかを検討します。
 実際に、乾燥方法を変えることや排熱を利用するなどは、既に複数の工場で行っています。これは、工場全体のエネルギー供給をみている原動力部門ならではのノウハウだと思います。

取組効果、今後の課題

省エネにかかる実績について。

 三位一体で行った高岡工場の塗装モデルライン活動を通じて、中央からの蒸気送気レスを達成したのち、塗装工場の7ラインへ展開することで、CO2を65,989トン削減することができました。
 特に、原材料の高騰が進む中では、省エネ活動の相乗効果として、コスト削減のインパクトも大きく、省エネ活動の効果を実感しています。
 今後も、「トヨタ環境チャレンジ2050」において省エネ活動を経営戦略の1つとして位置付けている通り、従業員全員が関連会社の方やグローバルメンバーと共に教え・教えあう取組を行うことで、「全員参加の省エネ」を推進するよう努めてまいります。

省エネルギーをエネルギーの質からアプローチし、アイデアの横展開に向けて三位一体で取り組む。

 省エネ大賞を受賞した今回の省エネ活動では、蒸気エネルギーの削減に着眼し、抜本的なエネルギー効率化を図るため、現場での蒸気の使用設備・使用方法・設備要求まで踏み込んだ調査を行い、エネルギーの適正利用について議論を行ってきました。
 特に、塗装工程では、蒸気を加温用途で使用することが最も多く、蒸気加温におけるエネルギーの有効性を示すエクセルギー(=最大の仕事量)の観点から考察を行ったところ、燃料から蒸気を生成し、工場設備を40℃に加温する場合を考えると、燃料の本来持つ有効エネルギーが、燃焼・変換・熱交換・減圧等のロスを経て、76%ものエクセルギーから損失していることを算出。蒸気加温はエネルギーの使い方として非効率と捉え、エネルギーの使い方そのものを検討することになりました。
 温度を下げる、液体の過剰な流量を減らすなど、根本的な考え方は様々な工程に共通するところが多く、横展開できるものだと思いますので、今後も各部門の三位一体で省エネ活動を取り組んでいきたいと思っています。

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