東邦ガス株式会社(愛知県名古屋市)

「みなとアクルスにおける地産地消型スマートエネルギーネットワークにより実現する
省エネとエネルギーの取組み」

業種:電気・ガス・熱供給・水道業(ガス事業)

 住所:名古屋市熱田区桜田町19番18号

エネルギー測定

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エネルギーセンター外観とNAS電池
エネルギーセンター外観とNAS電池 みなとアクルス(第1期・約22ha)の施設構成。
みなとアクルス(第1期・約22ha)の施設構成。

中央部にエネルギーセンターを配置し、ららぽーと名古屋みなとアクルス及び邦和みなとスポーツ&カルチャーには熱と電気を、集合住宅と邦和みなとゴルフ他には電気をそれぞれ供給。敷地中央の港北運河の熱も活用している。

事業の概要

○工場の跡地利用として、地産地消型スマートエネルギーネットワークを形成したまちを整備。

○ガスコージェネレーション(熱電併給設備。略称「CGS」)、NAS電池、太陽光発電、運河水を利用した熱利用、オフサイトからのバイオマス電力など、様々なエネルギーシステムを導入。CEMS(コミュニティ・エネルギー・マネジメント・システム)がエリア全体の需要予測を行い、エネルギーシステムの最適運転計画を立案

○供給事業者とエネルギー需要家など関係者が集まる低炭素推進協議会で情報交換を行い、エリア全体で省エネ・脱炭素を目指した協議を継続的に実施。

○エリア全体の一次エネルギー消費量は1990年比で38%削減、CO2排出量は65%削減を達成(2019.10-2020.9実績)。効率的な運転により、国内トップクラスの熱供給システムCOPの運転実績を誇る。

○2022年4月には本エリアにおける取り組みについて名古屋市と共同提案し、環境省の脱炭素先行地域(第1回)に選定され、第Ⅱ期開発を進めるとともに脱炭素の実現を目指したまちづくりを実施していく。

省エネ取組の主な概要

地産地消型スマートエネルギーネットワークの構築

○電力・熱・情報のネットワークにより、エネルギー供給者と需要家が連携して省エネ活動を推進。

○CGSを中心に、NAS電池、太陽光発電、バイナリー発電機、運河水熱利用ヒートポンプ、排熱活用熱源機、オフサイトからのバイオマス電力などを組み合わせ、電気・熱を供給。

○需要家では、商業施設ららぽーとが導入したAIによる画像解析を活用した省エネ空調の取組や、集合住宅全戸に家庭用燃料電池を設置し、24時間発電するEF群を一つの分散型電源として活用する取組を実現。

地産地消型スマートエネルギーネットワークの全体像

CEMSによる創エネ・省エネ・蓄エネの統合制御

○業務用施設のBEMS、集合住宅のHEMSとCEMSが連携し、電気・熱供給設備の需要コントロールを実施。

○過去実績・気象情報をもとに需要を予測し、目的関数(省エネ・省CO2・省コスト)に応じた最適計画を立案。30分毎のモニタリングによる自動修正機能も有する。

○供給事業者、エネルギー需要家、開発事業者、コンサルタント・システム設計者により構成される「低炭素推進協議会」を通じて、エネルギーの使用状況に応じて節電を要請するデマンドレスポンス(エネルギー需要家の電力・熱を制御。略称「DR」)を実施。実績データに基づく詳細な性能検証や、エリア全体や各施設で設定した目標値に対する省エネ活動の効果検証を行っている。

CEMS の制御フローとCCR(中央監視室)

CEMS の制御フローとCCR(中央監視室) CEMS の制御フローとCCR(中央監視室)

みなとアクルスにおけるエネルギー管理体制

みなとアクルスにおけるエネルギー管理体制

防災防犯活動や地域のにぎわい創出検討等を行うまちづくり推進協議会と連携しながら取組を推進。

省エネ取組による省エネ効果

地産地消型スマートエネルギーネットワーク

※電力デマンド60%低減
    合計60%の電力を自立分散電源で対応
    (内訳は、CGSで30%、太陽光発電+バイオマス電力+NAS電池で30%)

※蓄電池により10%電力シフト
    NAS電池で夜間余剰電力を充電、ピーク時に放電し、電力ピークを10%シフト

地産地消型スマートエネルギーネットワーク

※排熱活用率95%の熱システム
    ・排温水⇒ジェネリンク(排熱投入型吸収冷温水機)で活用
    ・排蒸気⇒蒸気吸収式冷凍機で活用
    ・余剰排熱⇒バイナリー発電機(温水を用いて発電)で活用

※運河水利用ヒートポンプによる20%の省エネ効果
    運河水をヒートポンプの冷却水(夏)ないし熱源水(冬)に利用し、機器単体の一次エネルギー消費量を20%削減。

運河水利用ヒートポンプによる20%の省エネ効果

CEMSによる創エネ・省エネ・蓄エネの統合制御

※電力ピークカット率73%を達成
    ①CGSで45%カット
     CGSで31%、CGS排熱利用熱源(蒸気吸収式冷凍機、ジェネリンク)で電力14%を削減。
    ②バイオマス電力+蓄電池で25%カット
     電力負荷が1,000kWを下回る場合でもバイオマス電力1,000kW(16%)を常時購入、NAS電地の充放電(9%)と合わせて電力25%を削減。
    ③太陽光発電で3%カット
     商業施設の屋上に設置した太陽光発電350kWをオンサイト利用し、電力3%を削減。

電力ピークカット率73%を達成

※国内トップクラスの熱システムCOP実績
    CGS+排熱回収型冷温水機+運河水利用により、冷熱システムCOP(エネルギー消費効率)=1.27を達成。ガス主体熱源システムでは国内トップクラスを誇る。

国内トップクラスの熱システムCOP実績 国内トップクラスの熱システムCOP実績

※デマンドレスポンス(DR)による電力5%、冷熱60%の削減
    ・電力DR  商業施設⇒最大170kW(5%)減、スポーツ施設⇒最大100kW(20%)減
    ・冷熱DR  商業施設⇒最大10GJ(60%)減、スポーツ施設⇒最大0.5GJ(25%)減


エリア全体の成果

※一次エネルギー38%減、CO2排出量65%減の達成
    2019.10~2020.9の実績で、CO2排出量65%削減の低炭素街区を実現

担当者インタビュー

東邦ガス株式会社
用地開発推進部 港明開発グループ 青木 亮一さん

省エネの取組推進のきっかけ

都市ガス製造工場の跡地利用として、地産地消型スマートエネルギーネットワークを形成したまちを開発。

 みなとアクルスのエリアは、1998年までは当社の都市ガス製造工場として稼働していました。工場の操業停止後、跡地利用として「人と環境と地域のつながり育むまち」をコンセプトに掲げて開発を行い、エリア全体で地産地消型スマートエネルギーネットワークを構築し、2018年9月に第1期のまちびらきを行いました。

東日本大震災の教訓を生かし、災害対応にも注力。

 みなとアクルスでは、開発検討開始後の2011年に東日本大震災が発生した影響もあり、「災害対応にも優れたまち」を意識し、開発を行ってきました。
 エリア内では、自立した分散型電源を確保するため、CGSやNAS電池、太陽光発電など、様々なエネルギー設備を敷地内に設置しています。また、CEMSには災害運転モードがあり、各需要家のBEMSと連携し、状況を見ながら災害時の電力需給を調整する役割も持っています。

取組推進のポイント

多様なエネルギー設備を導入。特に、排熱の有効活用に関する技術を充実させている。

 エリア内では、ガスエンジンを用いたCGSのほか、NAS電池による充放電、太陽光発電、運河水を利用した熱利用に加え、オフサイトからのバイオマス電力など、様々なエネルギーシステムを導入しています。
 特に、CGSではたくさんの熱が排出されるため、排蒸気を蒸気吸収式冷温水機へ、排温水をジェネリンクへ投入し、更に余剰分はバイナリー発電機で利用することで熱の高度利用化を図り、冷熱や温熱、電力を供給することで有効活用しています。
 敷地中央の港北運河の運河水を未利用エネルギーとして活用しています。冷房時はヒートポンプの冷却水として、暖房時は熱源水として、それぞれ利用しています。運河水は外気温に比べ、温度による変動が非常に小さいので、季節に応じて活用することで、ヒートポンプにおける一次エネルギー消費量の20%削減を実現しています。
 NAS電池は24時間365日運転しています。エリア内の夜間消費量が少ないので、余剰電力をNAS電池に充電し、昼間に放電しているのに加え、NAS電池を災害時の電力供給にも役立つ設備として位置付けています。
 なお、開発に当たっては、環境省の2つの補助事業(グリーンプラン・パートナーシップ事業、自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業)を活用しました。

CEMSでエリア全体のエネルギーの全体最適化を実施。DRの機能も備えている。

 エネルギーセンターでは、各種エネルギー技術に加え、需要家と協創して、エリア全体のエネルギーのマネジネントを行い、エネルギーの全体最適化を行っています。
 最適な運転はCEMSが検討します。各施設における電力や熱の需要や運転状況にかかる過去の実績と気象情報をもとに、エリア全体のエネルギー需要を予測した上で、エリア全体で最適な運転計画を立案するシステムになっており、省エネモード、省CO2モード、省コストモードという3つの運転パターンを持っています。
 加えて、DRの機能を備えています。これまで、低炭素推進協議会であらかじめ実証日時を連絡し、需要家にその間、省エネ運転などを対応いただき、どれぐらいのエネルギー量が削減できるかを試験的に検証して効果を確認することができました。今後は、災害時や夏場の冷房需要が増える時など、エネルギー需要が逼迫する際に発令し、実際の省エネ運転での活用の一つとしていきます。

供給事業者とエネルギー需要家など関係者が集まる低炭素推進協議会で情報交換を行っている。

 低炭素推進協議会では、供給事業者と需要家、開発に関わったコンサルが集まり、実績データに基づく詳細な性能検証、省エネ活動の効果検証、外部表彰への応募など、効率的な運用を行うための協議を年4回行っています。加えて、災害時の港区役所との電源供給訓練などの防犯防災に関する活動、DRに合わせクール・ホットスポットへの誘導を目的としたイベント開催など、ソフト面を検討するまちづくり推進協議会と連携しながら、より良いまちづくりを目指しています。
 エネルギー需要家をはじめとする関係者とコミュニケーションをとることが、最適な運転にはとても重要です。

取組効果、今後の課題

省エネにかかる実績について。

 CGSと太陽光発電、NAS電池、オフサイトからのバイオマス電力により、エリア内のピーク電力需要の約60%を充足。また、運河水利用による機器単体の一次エネルギー消費量20%削減や、排熱の高度利用化を行うことで、効率的な省エネ運転が出来ているため、国内ではトップクラスの熱供給システムCOPの運転実績を誇ります。
 その結果、エリア全体の一次エネルギー消費量は1990年比で38%削減、CO2排出量は65%削減を達成しています(2019.10-2020.9実績)。低炭素推進協議会で省エネ運転の分析を引き続き行い、更なる省エネ運転を図りたいと考えています。
 また、DRでは、電気では商業施設で最大5%を、スポーツ施設で最大20%を削減し、熱では商業施設で最大60%を、スポーツ施設で最大25%を削減という結果が得られました。
 特に、需要量の多い商業施設には、建設当初から当社エネルギーシステムとの連携を目的に議論を重ね、その結果、DR運転モードが整備されているため、高い効果が得られています。
 一方、スポーツ施設はみなとアクルスのまちびらき前からある施設であるため、DR運転モードは備えておりませんが、まちの取組みを積極的に実現しようと、例えばアイススケートリンク用冷凍機の運転時間調整を行うなど、施設運転員の工夫によりエネルギー使用量の削減が進んでいます。

エネルギー需要家と協創しながら、SDGsの達成に貢献するまちづくりを取り組みたい。

 建物単体だけではなく、まち全体で省エネを実現するには、低炭素なまちづくりに協力いただいた需要家のみなさんや、設計者やコンサルタントと密にコミュニケーションを図りながら取り組んできたことで、大きな成果を得ることが出来たのだと思います。
 また、エリア隣の港区役所には、災害時に自営線を経由して電力を供給できる非常用の電力供給システムを構築し、エリア内に留まらず、地域レベルでの災害対応力の向上へも貢献しています。
 みなとアクルスでは現在、第Ⅱ期開発について、オンサイトでの水素製造やバイオマス・風力などの再エネを活用した脱炭素なまちづくりを名古屋市および関係者とともに目指して検討を進めているところです。今後も、エネルギー需要家と協創しながらSDGsの達成にも貢献するまちづくりを実践していきたいと思っています。

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