「エネルギーの〝見える化〟から設備更新を行い、省エネを実現。
お客様・従業員にも、環境にもやさしい温泉旅館を目指して」
住所:石川県加賀市山代温泉 19-49-1
「悠幻の湯殿」露天風呂
アトリウム、ロビー
事業の概要
○1963 年創業の山代温泉にある温泉旅館・ホテル。
○東日本大震災を機に、環境負荷低減を図り、お客様の快適性と省エネを両立させた温泉旅館を真剣に目指し、地域の設備業者の助言で、BEMS導入によるエネルギーの見える化を実施。
○エネルギーの見える化データを元に、設備更新の方針・判断について投資回収年数も含めて検討し、エネルギー使用合理化等事業者支援事業など、補助事業を活用しながら設備更新を積極的に実施。
○基準年(2010年)からの11年間で、重油では約40%減、電気が約25%減、水使用量で約54%減を達成するほか、エネルギー削減を通じたコスト削減、働き方改革、新卒採用など企業PRなど様々な効果が出ている。
※ビル・エネルギー管理トシステム。Building and Energy Management System の略
省エネ取組の主な概要
BEMSデータ活用による最適設備容量への機器更新
空調設備(冷温水発生機)の高効率化による燃料消費量の削減
冷温水発生機の経年に伴う効率低下による燃料使用(A 重油)の増加および経年に伴う設備トラブルによるメンテナンス費の増加が懸念されるため、BEMSで測定した冷房・暖房運転時(8月・1月)の最大油量より負荷容量(能力)を求め、更新する冷温水発生機の負荷容量(能力)の見直しを行い、高効率型冷温水発生機(A 重油)へ更新。
(BEMS データの活用例:燃料使用量。赤色が工事前、青色が工事後)
「白雲の館」における空冷ヒートポンプモジュールチラー、温水ヒーターの更新
いずれも、高効率機種に更新。
空冷ヒートポンプモジュールチラー
旧機種 消費電力 約 521 千kWh年
↓
新機種気式 消費電力 約 268 千kWh年
温水ヒーター
旧機種 燃料消費 約 240kL 年
↓
更新機種(油炊き:A 重油) 燃料消費 約222kL 年
省エネ取組による省エネ効果
空冷ヒートポンプモジュールチラー
※消費電力削減効果
更新前 約 521 千 kWh ― 更新後 約 268 千 kWh =削減値 ▲253 千 kWh(原油換算量≒ 65 kL)
温水ヒーター
※燃料消費削減効果
更新前 約 240kL ― 更新後 約 222kL = 削減値 ▲18kL(原油換算量≒ 18kL)
空調設備(冷温水発生機)の高効率化
※冷温水発生機の仕様
冷房能力(kW) 更新前 845 → 更新後 739
暖房能力(kW) 更新前 774 → 更新後 512
※燃料消費削減効果
更新前 184.5kL ― 更新後 68.7kL = 削減値 ▲115.8kL
事業所全体の成果
※二酸化炭素総排出量:6,091,679kg・CO2(2010 年度)→ 4,016,130kg・CO2(2021 年度)【34.0%削減】
※水使用量:180,714 m² (2010 年度)→ 82,801 m²(2021 年度)【54.1%削減】
担当者インタビュー
ゆのくに天祥
代表取締役社長 新滝英樹さん
省エネの取組推進のきっかけ
東日本大震災を機に、環境負荷低減を図り、 快適性と省エネを両立させた温泉旅館を真剣に目指すように。
東日本大震災の際、被災や計画停電等で同業者が影響を受けている状況をみて、 お客様の快適性と省エネを両立し、環境負荷低減を進めていくことを真剣に 考えるようになりました。
地域のパートナー企業の助言で、BEMS 導入によるエネルギーの見える化を実施。
地域のエネルギーに詳しい設備業者に相談したところ、「計測機器を導入し、どこでどんな風にエネルギー消費されているかをしっかり把握するところから始めるべきだ」と提案されました。その際、社内では反対意見も出ましたが、当館は増築を繰り返した建物なのでエネルギーシステムが分散しており、中央監視室でエネルギーの使用状況が一括で見られることにメリットを感じ、「リスク管理の意味でも、導入してみよう」という結論となり、エネルギーの見える化をすることになりました。
電気や重油、水の使用量を量るため、館内 60 ヶ所に計測装置を設置し、使用量をリアルタイムに測定し、中央監視室や事務所のパソコンで、スタッフでも把握できるよう、BEMS を構築しました。
取組推進のポイント
エネルギーの見える化データを元に、設備更新の方針・判断を検討。
エネルギーの見える化は効果的で、それがなければ、ここまでの取組はできなかったように今思っています。数字で個別箇所のエネルギーの使用状況がリアルタイムで見えるからこそ、「この設備を置き換えることで、現状と比較すると○%の省エネになる」という客観的に判断が出来るようになります。
また、計測することで、多くの設備がオーバースペックであり、更新時にはスペックダウンすることが多かったのですが、どのくらいスペックダウンを行うとよいかの判断材料にもなりました。
さらに、エネルギーの見える化を提案された設備業者と計測データを情報共有することで、設備業者からは具体的な設備更新が提案しやすくなったとも聞いており、その点でも効果があったと思っています。
設備更新の投資回収年数も判断基準として重視。
設備更新を判断する上では、投資回収年数も重視しています。計測データにより、投資回収年が算出しやすくなります。
補助金は全ての取組で活用できる訳ではないのですが、背中を押してくれる大きな要素になります。これまでに、経済産業省のエネルギー使用合理化等事業者支援事業のほか、環境省の補助金も活用しました。
環境保全活動の取組方針を設定し、全従業員に周知。省エネは働き方改革にも効果がある。
石川県の環境マネジメントシステム「いしかわ事業者版環境ISO/いしかわ工場・施設版環境ISO」を活用し、従業員一人ひとりが自主的に、省エネをはじめとする環境保全活動に取り組むための取組方針や取組目標、具体的な取組内容を隔年で設定し、全従業員に周知しています。
設備更新を進めていくことは、従業員による運転管理等の手間が大幅に減り、働きやすい環境づくりにも効果があると思います。
また、データを確認した従業員から「この箇所はエネルギーの無駄になっているのでは?」という意見が出てきて、設備更新へとつながっていったケースも出てきました。社員自ら補助事業について検討できるようになるなど、省エネへの意識啓発が進んでいるように思います。
取組効果、今後の課題
省エネにかかる実績について。
令和3年度のエネルギー等の使用量を基準年(2010年)と比較すると、重油では約40%減、電気で約25%減、水使用量で約54%減になっています。また、エネルギー使用量の削減はコスト削減にもつながっています。
なお、水使用量をはじめとする数値実績が高い要因は、2012年から運用を開始した自家源泉の影響もあります。
新卒採用など企業 PR にも効果。お客様の快適性と省エネの両立を目指し、SDGs 経営を意識して取り組む。
これまでに、エネルギーの有効利用に顕著な功績のあった事業者として、中部経済産業局長表彰や石川県知事表彰を受けています。また、経済産業省の事業クラス分け評価制度でも2017年以降、4年連続Sクラスの評価を受けています。
SDGsという言葉が台頭する中、社会における省エネへの関心がとても高いようで取材依頼は増えています。また、今の学生さんもSDGsへの関心が高いので、環境負荷低減の取組についても積極的に紹介させて頂いています。
当館の目標は、お客様の快適性と省エネの両立です。また、こうした取組は、コスト削減や働き方改革にも効果があるとともに、SDGs経営にもつながり、持続可能な成長につながればと思っています。
既に主要な設備はほぼ更新してきましたが、さらに、運用面も含め、今まで手を付けて来なかったところに目を向けて、新たな改善策を模索しています。当館は増改築を繰り返しているために、機械設備や配管系統などが複雑で、設備投資額が膨らむことが多く、その点は課題として残っています。今後、この問題をどのように解決するべきか、設備業者とともに検討を進めているところです。