下請けからの脱却 コロナ前から続ける「下請けのみ、開発経験ゼロから始める自社製品開発」
(0)製品開発までの険しい道のり
「新開発を進めていく」というのは、泥水をすすりながらでも生きていく。と感じるほどに苦しいものだと私は思っております。ただ同時に、中小企業が今後も生き続けていくには、製品開発をすることが必要な道の1つだと感じております。
弊社が製品開発に取り組んだ当初は、自社設備や自社技術がなく、さらにはユーザーとの接点がないため製品開発をするうえで顧客が何に困っているのかわからない状況、まさにゼロからのスタートでした。
(1)製品開発の第一歩 下請けが課題を見つけるには
顧客の課題がわからなければ製品開発に乗り出せません。製品開発に乗り出した当時の弊社は、何とか課題がわからないか、メーカーの各社へ訪問をしましたが、当然見ず知らずの者に自社の課題を教えてくれるところはありませんでした。
そんな中、知財総合支援窓口(INPIT)に相談した際に、特許検索サイト(J-Plat Pat)で課題を抽出することを教わりました。今まで、特許はただの権利として見ておりましたが、各社の特許に関する資料を読み進めていくと、これまでにどのような課題があったか、どのように開発していったかが明確に記載してありました。
特許をただの権利としてみるのではなく、課題が記されたものとして利用すること。課題の情報源はここにありました。そして、課題が明確になったいま、製品開発の第一歩が踏み出せました。

製品開発のサイクル 開発マトリクス
(2)取引先の状況を読むこと、そして協力者を探すこと
製品開発に乗り出す中で意識したことは、どうしたら実機試験を行ってくれるかです。おそらく多くの中小企業にあてはまる課題かと思いますが、たとえよりよい開発を行っても実績のない企業の提案はなかなか聞いてもらえません。実績という大きな壁を乗り越えるために意識すべきは、比較的容易に試験をしてもらえる提案、つまり、相手先にとって如何に試験時間が短く、稟議書の判子が少なく済む製品開発に絞り込む必要があると考えます。
製品開発を始めたばかりの弊社では、なんとか試作までたどり着いても実績の壁にはばまれ、実機試験をしてもらえないことが何度もありました。そこで、闇雲に製品開発を行うのではなく、相手先にとって実機試験を行ってもらいやすい製品開発に注力していきました。そうすることで、開発のサイクルが回るようになります。サイクルが回れば実績が増え、実機試験の経験からより精度の高い課題が見つかっていきます。
ここまできたら、課題を解決する協力者を探していきます。精度の高い課題が明確になれば協力者を探すのは容易です。特におすすめなのは、公的機関、支援制度、大学の専門家を活用することです。製品開発のよくある失敗として、課題が明確になっていない段階で大学の専門家へ相談することです。漠然とした問いかけでは、専門家の真の力を発揮することはできません。「A製品を開発し、B試験を繰り返している。そこで、Cの課題が発生し困っている。どのような原因でこの課題が発生するのか。」といった明確な課題を提示することで専門家の力を最大限活かすことができます。加えて、大学や公的機関への協力や共同研究は、実績の少ない中小企業にとって信頼性に繋がり、実機試験をしてくれる可能性が飛躍的に上がる副次的効果にも繋がります。
こうした特許を通じて課題を抽出し、比較的容易に実機試験を行ってもらえる開発に絞り込み、実機試験からの明確な課題を専門家へ相談し、改良を重ねることで弊社では製品開発を進めることが出来ました。弊社が製品開発から売れ始めるまでに10年かかりました。開発にあたって弊社の経験を皆様の様々な場面で活かしていただければ幸いであります。

新開発が売れるまでの流れ 開発製品の売上げ推移
(3)自社製品をデザインする
弊社では取引先に対する提案力を上げるため、外部のデザイナーとライターの力を借りております。製造業の企業の皆様も苦手とされている分野かと思いますが、良い製品を開発することができたとしても、その良さを正確に伝えることになかなか苦難されているかと思います。弊社は、自社開発した製品をより正確にかつ効果的にお取引先様へ提案するため、伝えることに対する専門家として彼らと協力して製品を形作っております。また、余談ではありますが、伝える力が上がれば補助金等の採択の際ではとても強力な味方ですので、様々な場面で彼らの力を借りております。
(4)製品開発後の壁
製品開発に向けて、さらに私が感じるこれからの製造業の、特に中小企業にとって重要になってくることは、製品開発後の販売にも力を入れる必要があるということです。1. 自ら開発した製品を、2. 自ら決めた価格で、3. 自ら選んだ顧客に、4. 自ら定めた商流で、5. 自ら望んだ支払い条件で 顧客に販売してこそメーカーです。製品開発はこのうち、まだ1番目です。技術信仰が強い日本では、よりよい製品を作ることが出来れば、より売れるはずと考えがちで、多くの企業やプロジェクトが1を目標にしてしまいます。開発後、製品を販売するところにも多くのイノベーションが必要であり、この部分が製造業の一番苦手なところになりますね。弊社もまだまだ試行錯誤しながら進んでおりますが、いまコロナをはじめ大きな渦中にいるからこそ、今後も多くのことに挑戦していきたいです。
withコロナでの商社事業
コロナ禍での取組として、製造業の会社の製品を企業へ斡旋しております。先ほどの提案の話にも繋がりますが、自社製品を伝えることが苦手な製造業の方は少なくありませんので、弊社の商社事業は非常に現在の製造業とマッチしていると感じております。
また、先に説明したデザイナーやライターの力を借りることで製造業では苦手な伝える力やブランディングについて助力になるだけでなく、今から紹介する「ペン型消毒スプレー」のように売り方や魅せ方を工夫することで与える印象が大きく変わってくることを実感しました。コロナ禍での新たな取組は、製品を販売するという点で非常に勉強になりました。
<ペン型の消毒スプレー>

ペン型の消毒スプレー

ライターによるキャッチフレーズ(例)
コロナ禍での商社事業の一環として、ペン型の消毒スプレーの販売もしております。ただ、皆様も感じるかと思われますが、消毒スプレー単体だけでは魅力がありません。そこで消毒スプレー単体を販売するのではなく、スプレーの持ち手部分に広告を載せることで付加価値を高めております。例えば、企業の展示会の配布用として企業の広告付きの消毒スプレーを提案することで、消毒以外の新たな価値が生まれます。また、特に売り先として提案しているのが旅館であります。コロナ禍でのおもてなしの一つとして消毒スプレーを提案し、旅館の場合ですと女将の粋な文章サンプルをライターと考えることで、旅館へ提案する際のメリットに繋がります。
本業の耐火物用コーティング材の製造とは大きくかけ離れておりますが、コロナ禍でも新たな取組に挑戦することで普段考える品質、納期やコスト以外の視点に気づくことが出来ました。今後も下請けの立場に留まらない新たな取組を進めていきたいです。