改善に次ぐ改善、新型コロナウイルス感染症が懸念される中、創意工夫により奮闘するものづくり企業を取り上げます。
今回は、株式会社アーティストリーの大西 功起(おおにし あつき)氏にお話を伺いました。
コロナ禍により、業界全体が一時的に停滞するなか、SNS、オンライン会議等のデジタル技術を駆使し、新しいものづくりのあり方に挑戦された事例です。

大西 功起 氏

製作事例
プロフィール
・名古屋芸術大学デザイン学部 卒業。
・木製家具メーカである柏木工株式会社勤務を経て、株式会社アーティストリーへ入社。
・2019年より、製造部から新規営業職へ転身。
・2022年2月、部長職就任予定。現在36歳。
・個人的にも木工の魅力を伝える活動を行っています。
・仕事を通じ、サウナにハマりました。現在は社員からインターン生、お客様をサウナに案内し、交流を活発化させています。
座右の銘
「人に種を蒔ける人であれ」
自分がいただいたご縁や感謝は、自分の所でとどめず、循環をさせていくことが、人の営みの豊かさに繋がると考えています。
アーティストリーについて
商業空間、住宅などの特注家具・店舗什器等木製品を製造。東海地区最大級の職人集団であり、職人のもつ知識・技術・経験と、5軸CNCによる高い対応力により、3D図面作成および高度な3D造形が可能です。
コロナで感じた課題
商業空間をメインに特注家具を作る弊社としては、新型コロナウイルスにより、そういった場の活気が消え、仕事の計画も中止延期が多発しました。また、施主となる企業様も予算縮小の流れがあり、弊社も価格競争の流れに巻き込まれる事態となりました。
もともと弊社は、見積もり依頼からの受注型の企業のため、世の中の経済に大きく左右されます。また、業界構造上は2次下請けになるため、自分たちが行った仕事を外に発信することが難しく、新しい仕事に出会いにくいという課題もありました。それがコロナによって、より明確になったと感じています。
しかし、こんな時だからこそ、自分たちのブランドとしての価値や強み、ミッションを考え直す機会だと考え、社内でのリブランディング活動を行いました。その結果、私たちの培ってきた技術・対応力は世の中に求められていると確信し、揺るぎのない幹となり、あらためて新規営業活動に取り組みました。
Withコロナ

コアコンピタンス
(1)社内でのリブランディング活動
創業当時から企業理念はありましたが、より身近に意識するべく、
「Art is Try ~皆の心の中のアートを具現化する担い手であれ」という企業ミッションを2020年8月に設定しました。
また弊社は、5軸CNC×3DCAD×職人の3つの技術を高い水準でコラボレーションさせた単品作りがコアコンピタンスであると社内で再認識しました。
(2)SNSによる新たな営業活動
よりSNS戦略を加速させ、企業という大きな枠ではなく、担当者個人に直接向けたSNS・DMでの営業活動を展開しました。コロナ禍でのzoom普及もあり、個人個人で繋がれる機会が増えていたのも大きかったです。
(3)オンラインサロンへの入会
既存業界のサプライチェーンはなかなか変えられるものでなく、隣接業界、他業界でも自社の価値を見つけたほうが良いと、ビジネス系オンラインサロンへ入会しました。普段のお取引では、絶対に接することがない職種、立場、地域の方と出会うことができ、付加価値の高い交流、学びを得ることができました。
全国7都市の学生とのNARAプロジェクト
サロンに参加していた建築系学生8名とのコラボ企画「NARAプロジェクト(※)」を始動。コロナによって、思うような学生生活を過ごせていない学生のために、何かプロジェクトを実行したいという気持ちもありました。
丁度そのとき、社長から「会社の休憩所を自社のコアコンピタンスを活かし広告塔にしたい」という相談をいただきました。すぐ企画を練り、サロン内のプロの設計士ではなく、これからの業界を担う学生メンバーを募り、弊社の若手社員も加え、プロジェクトを開始しました。
(※)New Artistry Rest Area 老朽化に伴い、建て替えになった休憩所を全国の学生とオンラインで設計し、実際に建てるという産学連携プロジェクト。

NARAプロジェクト

製作の様子

完成した「わの休憩所」
オンラインによる他拠点設計を進めるにあたり、当時、オンラインはコミュニケーションが難しいとされていました。実際に会ったことがない私たちもその壁に直面しましたが、私たちは積極的に交流し、自立成長を図り、信頼関係を築き、プロジェクトを進めました。私たちの姿勢はウイズコロナ時代の産学連携の新しいあり方として、同じように悩み苦しむ方々に勇気と希望を少しでも与えることができるのではないか?と考え、プロジェクト当初から完成までSNSなどで発信し続けました。
設計図もできあがったところ、見積もりをするとかなりの予算オーバーに。会社としてみれば、コストかデザインか悩むべきところでしたが、こんな時代だからこそ、前向きに新しい木材表現の可能性へ挑戦したいと決断しました。弊社の予算追加だけでなく、もう1つの解決法として、クラウドファンディングでの資金調達を検討。学生メンバーも建築士の卵であるわけで、将来的には自分のデザインしたい建物を建築するには、予算に向き合う必要があるため、学びの一環としてもクラウドファンディングを選択しました。当時クラウドファンディングが活発化していたこともあり、しっかりと世の中に共感を得られるようにしないといけないと考え、戦略を練り、実行。プロジェクトの広報発信をずっと行っていた影響で、私たちの活動はいつしか応援してくれる皆様が増えており、その方々のご協力もあり、無事に目標金額を集め、休憩所を完成させることができました。
休憩所の製作を通じて

プロジェクトメンバー集合写真

実物を観察するメンバーたち
「本当に作ることができるのか?」特徴的なデザインは見る人にそう思わせます。弊社の職人たちも同じでした。しかし、製作検討を社内で行っていくと、職人たちもプロとして作るモードになり、真剣さが増していきました。まさに「Art is Try」の精神のもと、学生たちの想いを具現化するための挑戦が始まりました。
本製作が進むに従い、デザインした学生が見て、イメージと違う!?となってしまわないかという不安はありましたが、社内のメンバーが各々の役割を責任をもって行動し、完成させることができました。
完成に伴い、愛知県の弊社にメンバーが集合し、初めての対面を果たしました。出来上がった休憩所にメンバーも喜び、作った職人たちもその声を直接聞きました。その反応を知ることができ、そこで改めて私たちも職人の仕事のやりがいを感じました。デザインをした学生も、パソコン上で構築した設計図が組み上がっていく様に、職人ってすごいなと、そういったものづくりの喜びを感じてくれたと思います。
前例のないデザインの休憩所は、見る人に木材表現の可能性を広く示す結果となり、全国から見学や問い合わせ、授業への登壇相談が急増しています。コロナは1つのきっかけでしたが、活動をとめることなく、挑戦した「NARAプロジェクト・わの休憩所」は、まさにアーティストリーという弊社のブランドイメージを体現する実例になったと思います。
私自身も初めてのプロジェクトマネジメントでしたが、沢山の皆様との出会いのおかげで、多くを学び、無事に成功に導けたことは大きな財産と自信となりました。
「流氷を見渡せるサウナ」の製作へ

木の洞窟をイメージ UNEUNA(ウネウナ)

流氷をイメージ KAKUUNA(カクウナ)
「NARAプロジェクト」における3D設計の休憩所がきっかけで、サウナプロデューサーのととのえ親方(松尾大氏)から連絡があり、世界自然遺産、北海道知床半島にある老舗ホテルのサウナ室改装に携わることとなりました。
日本にはまだないデザイン性の高い、ファッショナブルなサウナを作りたい、そういった施主(ホテル)の想いと弊社の技術が合致し、受注。北海道、愛知、関東と遠隔地からのオンライン会議で、設計データを構築。NARAプロジェクトで培ったオンライン設計の経験が活きます。5軸CNCを用いた3D設計のサウナは世界でも数例、日本の公共サウナではおそらく初の取組だったと思います。普段、家具製作をしている弊社ですが、ここでも「うちは家具屋なのでサウナは作れません」ではなく、「どのようにすれば実現できるか」と挑戦する姿勢があったことが大きかったです。
これまでの業界構造では、施主(ホテル、建築士等)⇒現場管理会社(ゼネコン等)⇒専門会社(木工を担う弊社等)という構造で、弊社が直接施主と話す機会はなかったため、弊社としても大きな経験でした。オンライン技術をフルに活用し、日本初のデザインサウナを作りたいという希望を、弊社が5軸CNCと職人技術を用いて直接対応し叶えた、新しいビジネスモデルのあり方でした。この「流氷を見渡せるサウナ」によって、一気にサウナ業界で「アーティストリー」の名前が広がり、次のサウナPJやサウナ愛好家の方々からビジネスの相談、交流が増加しました。
ホテル情報:北こぶし知床ホテル&リゾート
最強の下請けから最高のパートナーへ
今回の挑戦により、同じ場所にいなくても、他拠点にいる人達がオンラインでつながり、ものづくりができる、これからの新しいものづくりの手法をコロナ禍に実現できたことは、非常に大きな発見でした。もう1点、SNSでは会社の看板や肩書き、年齢に捕らわれることなく、その先の個人に触れることができ、熱量と気持ちがあれば、一緒にものづくりができるとわかりました。
「NARAプロジェクト」や「流氷を見渡せるサウナ」のような実例を残し、もっと沢山の方に知ってもらいたいと思います。そして、何か「アーティストリー」に作ってもらいたいと思っていただけるよう、私たち自身が皆様の最高のパートナーとして成長する事が次の目標です。