
左から森さん、中村さん、谷澤さん、前川さん
三重県工業研究所は「地域企業の発展を支援する中核的機関」として技術相談、機器開放・依頼試験、研究開発を通じて、将来の産業動向も視野に入れながら、 地域企業の技術開発を支援しています。ものづくり企業だけでなく、食や医薬品研究に関する企業向けの設備も数多く保有しています。
今回は、三重県が取り組んでいる産学官が連携する研究会の一つ「IoT・スマートものづくり検討会」について、前川さん、谷澤さん、森さん、中村さんにお話を伺いました。
Q1.三重県工業研究所では、企業のAI・IoT導入支援について、どのような取組を行っていますか。
A.三重県工業研究所では、「みえ産学官技術連携研究会」を県内ものづくり企業の競争力の強化や付加価値の向上につなげるため、平成29年度に設置しました。
この研究会は分野別として、地域資源研究会、基盤技術研究会、成長分野研究会、広域連携研究会の4つからなり、企業の挑戦を県や大学などが応援伴走し、企業の課題解決や戦略的な産学官の取組などにつなげることによって、地域イノベーションの創出を目指しています。
●地域資源研究会:陶磁器、鋳物の鉱工業品に関すること。
●基盤技術研究会:自動車関連等基幹産業の基盤技術に関すること。
●成長分野研究会:航空、医療機器、食の分野に関すること。
●広域連携研究会:県域外の公設試、大学等との連携による新技術創出に関すること。
そうした中で、平成30年度に基盤技術研究会の下部の検討会として、ものづくり企業におけるAI・IoTなどのデジタル技術の活用による生産性向上をテーマとした「IoT活用検討会」を設置し、IoTセンサによる設備異常の検出や予知技術開発、小型カメラによる設備モニタリング技術開発、IoTセンサシステムの開発支援などに取り組んできました。
令和2年度に
「IoT・スマートものづくり検討会」と名称を変えて、現在はDXやデジタルツインなどを目指して取組を深めています。検討会は、主に県内企業を対象に年1~3回のペースで最新のデジタル技術や成功事例の紹介などを行い、新たな共同研究のきっかけとなるよう取り組んでいます。
Q2.IoT・スマートものづくり検討会で、取り組まれている事例を教えてください。
A.企業から相談が多いのは
「品質検査の省人化」です。人材獲得難や業務負担軽減のため、工場内を自動化したいニーズがある一方、AIなどの新技術を導入することについては、コストの面でも中小企業は後手に回っているのが現状です。検討会をきっかけに、品質検査の省人化を共同研究している事例をご紹介します。
(1)画像処理及び機械学習を用いためっき不良の判別技術
めっき加工を扱う企業では、検査員が目視でめっき不良を判定しており、検査工程の省人化や省力化が求められています。そこで、画像処理と近年注目されている機械学習による手法を用いて、不良品判定に適用する基礎実験を行いました。
画像処理:検査箇所を自動で抽出し、入力画像を作製し、良品データと入力データの輝度値を比較します。めっき不良があれば暗くなる(輝度値が下がる)ため、それにより、不良品か否かを判定します。
機械学習:良品・不良品のサンプル画像で機械学習を行い、それぞれの学習した特徴から不良品の判定を行います。
現状では、どちらの手法でも90%以上の精度で不良品を判定することができました。今後は、判定速度・精度及び汎用性の向上等の点について、実際の企業の生産現場導入に向け、検討していきます。
(2)AIを用いた多層フィルム製品の表面欠陥の分類
多層フィルム製品は、生産時にフィルム表面に欠陥が生じる場合があります。欠陥には、購入してきた素材に原因があるもの(1種類)、加工する際に生じたもの(2種類)の合計3パターンがあります。不良品の発生を抑制するためには、どの工程で発生した欠陥なのかを把握することが重要で、現場では3パターンの欠陥を目視で分類していました。
本事例では、AIツール「lobe」※を用いて、欠陥を自動分類することで工程改善のフィードバックにつながるよう試みました。欠陥は、形や大きさで分類することができ、サンプル画像を用いて機械学習を行うことで、90%以上の精度で分類することができます。
今後は、サンプル画像数をさらに増やし、精度を100%に近づけ、イレギュラーな欠陥にも対応できるように取り組んでいきます。
※「lobe」:Microsoftが公開している機械学習モデル作成ツール。
Q3.ご紹介いただいた事例では、どのような機器を使用されているのですか。
A.検討会の方針として
「比較的安価なAI・IoT導入支援」を掲げています。そのため、企業が製造現場で導入しやすいように、検討会において使用する機器は自作するなど安価に取り組むように努めています。
また、画像処理において実際に撮影される画像で精度が大きく作用されるため、使用する自作機器は対象物に応じて撮影高や照明の色彩を調整するなど、画像処理に適した画像が撮影できるよう工夫しています。
Q4.ご紹介いただいた事例の中で苦労した点などありますか。
A.活動の中で最も苦労したことは、
不良品のサンプル画像が少ないことです。多くの企業では従来から不良率が低くなるよう改善を重ねておられるので、実は不良品サンプルを集めることが困難で、機械学習のための教師データの不足が課題となっています。
本事例でも数百枚程度のサンプル画像数が限界で、データ数が足りていないのですが、少ないサンプル画像数で精度を上げる水増し手法を試みるなど、データ数が足りていないながらの工夫をして取り組んでいます。加工した画像でサンプル画像数を擬似的に増やすことができ、少ないデータ数で精度を90%まで高めることができました。
Q5.また、活動の中で企業から喜ばれたことなどはあれば、教えてください。
A.技術面・コスト面から中小企業でのAI導入はまだまだハードルが高く、AI導入の検討すら行っていない企業も少なくありません。そうした中で、検討会を通して共同研究に発展し、AI導入のきっかけ作りに繋がったとありがたいお声をもらっています。
また、技術的なサポートはもちろんのこと、使用するAIツールはフリー(無料)のもので取り組んでいます。AI導入の第一歩として
中小企業がコスト負担少なく省人化にチャレンジできるように努めています。
Q6.IoT・スマートものづくり検討会の今後の展開について教えてください。
A.検討会は、先端的に取り組んでいる企業の事例紹介や共同研究のきっかけづくり場として引き続き実施していきます。
市販のAI・IoTツールを導入した企業であっても、企業自身がAI・IoTに関する技術・知識が不足しブラックボックス化して、使いこなせていないケースが少なくないと感じます。
三重県工業研究所は、AI・IoT分野を強化するため、若手職員を担当に据えて、職員自身にも新しいデジタル関連技術の知識や企業支援経験が身につくように検討会を運営しています。そういった職員が、継続的に企業の方々にAI・IoTツールの使用・管理についての講習なども行っていくことで、中小企業がDXに取組むきっかけづくりになればと考えています。
AI・IoTで解決したい技術課題がございましたら、お気軽にご連絡ください。
本インタビュー対応者
◆ものづくり研究課 前川 明弘 総括研究員兼課長
◆ものづくり研究課 谷澤 之彦 主幹研究員
◆ものづくり研究課 森 大樹 研究員
◆ものづくり研究課 中村 敬 研究員