株式会社水谷精機工作所
VR技術の導入をきっかけにデジタル産業へ挑戦
旋盤・平面研削盤メーカーとしてスタートし、設計から製作、組立・検査にいたる一貫した生産体制を整える機械設備メーカー。年々、平面図面を読み取ることができる人が減り、設備を製作しても現場に導入して初めて様々な指摘・課題が発見され、時には作り直しを求められるケースがあることに課題を感じていた。
そんな中、6年前にVRに取組みたいという相談が舞い込んだ。3DCADの設計データをVRで立体化すれば、試作がなくても直感的に細部まで設計を検証でき現場が楽になると考え、デジタルツールの開発に踏み切った。
まだ「DX」という言葉もない時代ではあったが、もともと最新技術の導入には敏感であった創業時から受け継がれてきた社風が、デジタル産業への挑戦を後押しした。
ものづくり現場を知る強みを生かしたDXへの提案力
DXは、「ものづくりの現場をもっと便利にするもの」という認識に基づきツール開発に着手。使い勝手については繰り返し現場から意見を求め、修正を重ねた結果、「4面プロジェクションVR」の事業化に成功。データ情報をプロジェクションマッピングにより実物大の立体で映像化することで、試作なしで細部まで確認ができることから、リードタイムの大幅削減と現場の作業性が高まった。大型専用機の様な失敗が許されない一品ものには、特に大きな効果を発揮している。
続いて、同じ視界を高画質で共有しつつ、ハンズフリーにて会話できる「リモートマイスター」、360°カメラにより工場レイアウトを撮影し3D化・設備の配置検討や寸法測定が可能になる「デジタルツイン提案サービス」や、映像の長期保存と簡易検索を可能としたトレーサビリティシステム「TAマイスター」等、次々とデジタルツール、サービスを開発。「リモートマイスター」は、切削面の加工精度を確認できるほどの高画質映像でリアルタイム通信ができるため取引先とのリモート立ち会いや海外工場での現地従業員の技術指導で活用される等、ウィズコロナ・アフターコロナに対応した新たなビジネスツールとしても役立っている 。
現状では、まだ「DXに取り組みたいが何ができるのか教えて欲しい」といった漠然とした相談が多いが、高いCADの設計力を有し、ものづくり現場を熟知しているからこそできる現場目線でのDXへの提案力が成功の鍵となっている 。
DX事業による新規顧客獲得とものづくりへの還元
DX事業を展示会等でPRすることで、これまで付き合いのなかった企業・業種からDXに関する問い合わせが増えてきた。例えば、「デジタルツイン提案サービス」は、元々は工場の設備導入への活用を検討していたが、その没入感からオンラインECサイトへの応用や観光・展示会など活用の幅が広がり、商店街や教育分野、結婚式場等からも相談が来るようになった。「リモートマイスター」は大手建設会社より、技術伝承や事後検証のために仕事の様子を高画質で保存したいという要望があり、新規取引開始に繋がった。
また、DX事業に取り組むことにより、既存の顧客以外からのニーズを把握することができ、主力製品の改良や新製品開発にも役に立っている。DX事業とものづくりを両輪で展開することで課題解決への提案に幅が生まれ、新たなビジネスチャンスを創出できることを実感している。
全社員へのDX浸透と「今すぐできるDX」の発信
単なるものづくり中小企業から、何か面白いことをしている企業という認識が社内外に浸透し始めた。この動きを加速化させるため、2022年4月にDX事業部を発足。新卒3名と外部から新たに採用した経験者を部長として組織体制を構築。システム開発は、現場経験もある若手設計者を専任に指名し、スタッフに初めて採用した大卒文系人材を教育しつつ事業を進めている。
多くの企業が変革を求められている今、ただ漫然と機械製造を行っていてはいけない。ものづくり企業であるというコアは残しつつ、新たなことにチャレンジする必要がある。次の展開として、DX事業部だけでなく、全部署の社員がDX商品の対応ができるよう仕組みづくりを始めている。会社をショールーム化し、多くの企業が取り入れやすいよう自社の取組を発信し続けることで、今すぐできるDXへのヒントを提供できる企業を目指している。
担当後記
デジタルツインやVR等、時代を先取りした技術をいち早く導入し、ものづくりで得られた知見を活かした現場目線の提案はこれからDXにチャレンジする企業にとって課題解決につながる取組。ものづくりとの相乗効果を発揮しながらDXを新たな事業の柱に成長させることを目指した好事例である。