株式会社ヘルスケアシステムズ
DXで実現する新たな価値を生み出すビジネスモデルの変革
2009年に名大発ベンチャーとして創業したスタートアップ企業。健康に関心のある人は多いが、健康に資する商品やサービスを直感で選んで体感で継続を決めているという現状に課題を感じ、「生活習慣のミスマッチをゼロにする」を目指して、検査を活用した様々なサービスを展開。検査キットで尿などの検体を郵送してもらい、検査結果をスマホで受け取る郵送検査サービスを展開している。
現在の郵送検査サービスでは、検査データとその付属情報は日々蓄積されているものの、1検体に1データ、1プロセス、1ゴール(結果)しか得られておらず、その多くは十分な価値を出すことなく蓄積されている。そこで、デジタル技術要素を積極的に取り入れながら、1検体から得られる様々なデータの複線化を図ることで、顧客の健康課題や潜在的なニーズを発見し、単なる「検査数値」の提示から「自分に合った健康行動」のレコメンドへと、ユーザー本位の価値あるサービスへの提供を目指すビジネスモデルの構築を「ヘルスケアシステムズ2.0」と名付け取り組んでいる。
DXの実現によって、2027年度までに郵送検査の総利用者数を現在の10倍の500万人とするとともに、パーソナルな健康行動をレコメンドする情報提供サービスの実現によって中小企業から卒業することを目標に掲げている 。
専門部署の体制強化と全社的に取り組むDX人材の育成
2019年にICT事業部を立ち上げ、現在6名のデータサイエンティストとシステムエンジニアが所属している。社内体制は整えたものの、高度技術者の獲得には四苦八苦している。専門人材は自社内でも育成していくが、自社の事業を理解できる人材であれば副業や兼業も積極的に受け入れたいと考えている。
他方で、「ヘルスケアシステムズ2.0」を実現するためには、各部署にデジタル担当者を置き、簡単なプログラムはどの部署でも設計できる体制が必要であり、専門部署だけでなく全社員のデジタルスキルの底上げを図ることが大事と考えている。社員の半分は意識を持っているが、システム専門部署を置いたことで、簡単な仕事まで専門人材を頼るようになってしまったことに危機感を抱えていた。
そこで、ノーコードツールを使いこなせる社員を増やしたいと考えたところ、経済産業省の「マナビDXクエスト」を紹介いただいた。受講が完了した社員には1万円のお祝いを用意し積極的な参加を呼びかけたところ、約3分の1の社員が意欲的に受講してくれた。例えば、これまでコードに関する専門知識やプログラミング経験のない経理担当も参加したり、昼休みを活用したPythonの講座が社内で開かれたりするなど積極的な活動が見られた。「マナビDXクエスト」のプログラム内容のレベルは高く、有効な学習の機会となっている。
スタートアップ企業であっても変化に苦手意識を持つ社員はいるが、20年先にはデジタルがわかっていなければついていけず、ともに働く若者から、「一緒に働きたくない」と思われてしまうかもしれない。今、身につける努力が必要であり、業務の知識とあわせてすべての社員がデジタルの知識を持つことは、社員にとっても役立つことを理解して貰っている。
社内ルールの変更による理解促進とトップからの継続的なメッセージ
社内の情報共有方法についてもデジタルツールの活用を図るべくルール化した。まずは、検索力の向上と、再度PCに入力する二度手間を省くため、紙のメモを禁止した。次に情報アクセスの平等性を保つために、メールによる社内のやりとりを禁止した。メールではローカルPCにしか保存されず、後から入社した社員が過去の経緯を追えないが、社内SNSでコミュニケーションをとれば、スレッドを遡るだけで過去の経緯を把握できる。
データの取り扱いについても、担当毎に異なったフォーマットを使用していたので、揃えることから始めた。当初は嫌がる社員もいたが、現在使用しているフォーマットの限界に気づくと抵抗はなくなり、改善の提案が出てくるようになった。慣れた方法よりもっと良い方法があるのではないかと課題を発見し、解決のためのアイデアが出てくる会社へと変わることが目標 。
本質的なDXの実現には費用と時間、そして社内意識の醸成が必要であり、短期間では達成できない。会社の将来の事業成長のために新たなビジネスモデルで収益構造を変える必要性を繰り返し社員に説明している。そして社長自身がDXに対して真剣に取り組まないと、社内意識の変革までは至らず、号令だけに終わってしまう。
全社を巻き込む覚悟を持った挑戦
DXは、「X(トランスフォーメーション)」が大事。攻撃型DX(市場開発、儲け方のデジタル化、顧客とのコミュニケーション)と守備型DX(多様な働き方の実現、効率的な組織成長)の2種類があると思うが、経営者のビジョンがしっかりしていないとDXは取り違えてしまう。
「ヘルスケアシステムズ2.0」の実現に必要不可欠であった基盤システムの更新については、以前はベンダーに外注していたが、どうしても自分たちが進めたいスピードや要求に追いつかないため、ICT事業部を立ち上げて内製化による入れ替えを決断した。業務の基盤づくりからはじめ多額の開発投資をしている。資金力の弱いスタートアップ企業にとっては相当な覚悟が必要であったが、事業再構築補助金等を活用し、3年がかりで新システムを構築した。
DXは、従業員規模が小さい企業の方が、大企業以上に波及効果を発揮できる挑戦である。
担当後記
中部地域の大学発ベンチャーでは初めて「DX認定事業者」の認定を受ける等、明確なビジョンの下、社内体制を整え、全社一丸となってデータ活用を強みとした新ビジネス創出へ挑戦する好事例である。