光洋鋳造株式会社
持続的な経営を目指した環境整備
現在は自動車用プレス金型が事業の柱となっているが、約 15 年前から風力発電用ハウジングを量産鋳造してきた。リーマン・ショック後に生産量が激減したため、フルモールド鋳造法による多品種少量生産に特化した事業方針の変革に迫られた。
生き残りをかけた新規顧客の開拓の中で、多品種少量生産で差別化を図るためには、不確定要素の多いアナログ業務では品質を安定させることが難しく、さらに、短納期で納品するために生産の効率性も求められた。
また、人口減少や若者のものづくり離れを背景に、職人のカン・コツを引き継ぐことが難しくなり、高齢により退職した職人が残してくれた「秘伝の書」をそのまま次世代を担う従業員が実践するには非常に難解であった。暗黙知を標準化することで年齢や国籍を問わず誰が作業しても同じ品質を維持できる環境を整備する必要があった 。
これらの課題を解消するための答えが「デジタル化」であり、社内にIoTチームを立ち上げ、生産現場や技術指導、生産管理、働き方改革に至るまで、様々な変革に取り組んだ。
事業変革を目指したIoT導入
生産現場のデジタル化として、鋳造解析ソフトを導入した。現場の経験を設計に反映させるために試行錯誤を繰り返しながら、CAD/CAMによる模型設計と同時に、応力解析により欠陥シミュレーションをできるレベルまで精度を高めた。RPA※を使った無人解析も開始し、200件/月の解析を無人でこなすことが可能になり、品質の安定のみならず省人化(残業時間半減)も実現出来ている。
技術指導では、製造工程を複数に分割して動画で解説したり、外国人実習生に対しては母国語の吹き替えを用意したりする等、誰でもわかりやすく技術を習得するための工夫を施している。また、研修を修了した実習生に対して本人の希望に応じて帰国後にCAD/CAM業務をオンラインで外注する等、育成した人材を効果的に確保・活用している。
生産管理についても、図面の紙管理をやめ電子化を図った。汚れや紛失の恐れがなくなっただけでなく、検索も容易になり類似の仕事を受注した際にはすぐに過去の資料を確認することが出来るようになった。
さらに、コロナ禍以前からリモートワークの環境を整備しており、生産管理システムの他、CAD等も自宅や出張先、海外から社内のPC の遠隔操作が可能となっている。
※用語解説
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション):より高度な作業を人間に代わって実施できる認知技術(ルールエンジン、AI、機械学習等)を活用した業務を代行・代替する取組。
変革を受け入れる企業風土
トップが号令をかけても、現場の実態にそぐわないとデジタルツールの活用は進まない。もともとデジタル人材と呼べる人材はおらず、IoTチームは若手やCADの経験がある人を任命した。現場のデジタル化は一朝一夕で達成できるものではなく、現場とは様々な衝突があったが、その都度、原因を突き止め使い勝手の悪さやツール導入の意義を丁寧に説明し協力を求めた。現場の作業が楽になり、会社の利益が上がることを実感できるようになると、成功体験となり一気に加速する。
例えば、生産現場・生産管理をデジタル化したことで、生産計画を見通すことができ、営業からの急な発注依頼にも対応しやすく、仕事を受けやすくなったと、現場から声が聞こえてきている。図面の電子化も導入前は数時間を掛けて探していたが、その手間が不要となり、今ではタブレットを使うことが当たり前になっている 。
デジタル化を進めた最大の効果は、今まで発言の機会が少なかった若手から積極的に意見が出るようになり、社内コミュニケーションが活性化し、従業員の自主性向上へと好循環を生み出していることである。
先代の時代から、社是として「日本一の鋳造会社を目指して、他社とはひと味異なる取組を行う」方針を掲げており、企業風土として従業員全員に新しい取組を受け入れるマインドが根付いていることが実現へ導いたと感じている。
付加価値を生み出すためのデジタル化
日本の鋳物産業は、古くからの商慣行により重量で査定される傾向にあるが、中国をはじめとする海外製品と勝負するためには、付加価値を生み出されなければ生き残れない。
従来型のベテラン作業員のカン・コツは日本のものづくりの強みだが、それだけに依存せず、生産プロセスから製品評価に至るまでエビデンスを付し技術力の高さと品質の証明することで、取引先から評価と信頼を得ることができている 。
自動車の電動化の動きをはじめ社会経済の環境変化は激しく、今後も現状に留まることなく社内外からの信頼される企業として、新たな付加価値を生み出す新分野への顧客開拓を目指していく。デジタル化による企業変革は中小企業だからこそ実現出来る挑戦であると確信している 。
担当後記
職人のカン・コツに頼っていたノウハウを、デジタルの力で全従業員が分かる形で共有し、エビデンスを用いて他社との違いを明確にし、企業の付加価値を生み出すために、デジタルツールを取り入れ、変革を達成した好事例である。