三共電機株式会社
社長自ら始めるDX
同社は、電気制御盤の製造部門と部品販売部門の二本の柱を強みとしている。工作機械や自動車生産設備に用いられる高付加価値の制御盤の製造を得意としており、構想設計から部品の調達・製造・電気工事・試運転まで一貫して行う。特に、重工業向けの水冷式インバータ盤製造を行うなど、その技術は非常に高く、緻密な納期管理とともに大手メーカーを始めとした顧客からは高い評価を得ている。
大企業でのエンジニア経験を経て、2014年にUターンした三橋社長は、「社員年収700万円」を目標に掲げるなかで、1.新事業への進出2.業務の効率化・改善活動の自走化3.技術力の向上・伝承への取り組みが不可欠であった。当時の会社の状況は1.煩雑な部品管理2.属人化した技術力3.担い手の不足などの課題にも直面していた。しかし、「現場を変えて効率化しよう」という取り組みそのものに消極的な雰囲気が存在しており、このような状況を打破すべく、三橋社長自身がローコードアプリを活用し、在庫管理アプリをはじめ、多数の業務効率化アプリを開発することで社内のDX化を推進した。
ローコードアプリの活用による業務の効率化
同社のDX化で欠かせないキーワードはローコードアプリである。三橋社長がPCを操作中に偶然に業務アプリ開発ツールを見つけたことが始まりだ。「これは使える!」と直感し、社長自ら勉強していくつものアプリを開発した。
制御盤を製作するためには、約2000種類の在庫品を管理する必要があるが、誤手配や優秀な作業者の手を止めることによる生産性の低下、過剰在庫など課題が山積していた。また、棚卸業務も職員の大きな業務負荷になっていた。開発した在庫管理アプリはこれらの課題を解決し、残業の削減・過剰在庫の解消・生産性の向上を実現。特に、棚卸し業務は従前1週間費やしていた作業が半日になるなど、効果が顕著であった。
さらに受注から出荷までを一気通貫管理できるシステムも構築した。特定のフォーマットで受注を得ることで、進捗管理はもちろん、図面や作業方法を一元的に管理。進捗と作業方法が社内で共有されることで、属人化を解消し、多様な人材が活躍できる環境を実現した。
データを活用した経営判断
アプリの導入の効果は業務の効率化だけにとどまらない。進捗に関するデータだけでなく、売上や利益、在庫など経営に必要なデータをすべてリアルタイムかつ一元的な管理ができるようになった。同社が製造する高付加価値の制御盤は、製造に100時間以上を要するものもある。キャッシュフローの管理が難しく、もう一つの柱の部品販売業の売り上げとのバランスが重要になる。これまでは、販売比率を確認しようとする際に、データの整理に3ヶ月以上要していたときもある。データ化が進むことで日々の販売比を表示する仕組みの構築が可能となり、経営判断の重要なツールになっている。
正確な原価計算をリアルタイムで取得できることも、同社の成長の大きな力になっている。より早期のタイミングで違和感をキャッチし、必要に応じて価格交渉にデータを用いることで、顧客との価格交渉や、工程・作業方法を見直し等により、適切な対価を得ることにつながっている。
また、一部の取引先には製作の進捗状況データで共有することも始めている。取引先に安心感を与えることで、同社の強みに一層磨きをかけている。
働き方改革とカーボンニュートラル
三橋社長の取り組みが浸透することで社内にも仲間も増えてきた。今は、アプリ開発・プログラミングができる職員も増えており、社長が気づかない改善案が現場から声としてでてくるようになった。残業は取り組み前の半分になり、有休の取得率も大幅に上昇した。他方、コミュニケーション専用の連絡ツールの導入や社長自ら給与明細を手渡しするなど、あえてコミュニケーションの余裕を残すことで、従来からある温かみをそのまま残している。
また、市販の電力監視ユニット・温度湿度計を活用することで、工場内120台のブレーカーの使用電力量、太陽光発電の発電量、各作業場所の温度・湿度のデータも取得している。電力量の見える化により無駄な電力消費を削減しつつ、温度湿度から不快指数を算出することで従業員への快適な環境の提供を維持するなど、職場環境の改善とカーボンニュートラルへの取り組みも両立している。
DXが生む新しい挑戦
少子高齢化を始め日本全体が大きな社会問題に直面している。自動化、省力化、デジタル化を支える制御盤業界もその影響で担い手不足は加速し、事業者数もピーク時の1/3まで減少している。
同社は社内DXで培ったノウハウを生かし、一部の制御盤を自動で製造する技術開発を大学と連携して進めている。中小企業こそ、DXを活用し、人にしかできない新たなチャレンジする時間を創造することが大切だと三橋社長は語る。
ローコードアプリを活用したデジタル化は社長の気持ち一つで始まった。「社員年収700万円」という三橋社長が掲げた目標に、今は社員一丸となって取り組んでいる。
担当後記
社長が自ら勉強し、アプリを開発したことが特徴。現場目線だけでなく経営者の目線でのデジタル化を進めた結果、DXにたどり着いた好事例である。